
チョム
@abb_20260521
2026年9月19日
BUTTER
柚木麻子
読み終わった
再読した
実際の事件を下敷きにしつつもオリジナルな物語に仕立てあげられている。主人公記者が被告にのめり込んでいく様子やその後の変化が緻密に設定されており、主人公と親友の信頼や情の深さ、ひいては人間同士の繋がりを多角的に照らし描いた物語だと感じた。
食にあまり関心のなかった主人公・里佳が、刑務所でのカジマナ被告との面会を通して「ほんものの味」を知っていき、よく食べるようになっていく変化については、某ダイエットサプリCMの「いっぱい食べるきみがすき♪」が脳内再生されるほど好印象であったが、それを教示しているのが刑務所の中の人間であるというところがなんとも言葉に詰まる。この不摂生女(里佳)がもりもり食べるようになったことは感謝する、だが貴女の罪はこのことでは相殺されないぞ、という感じである。でも貴女の罪って結局なんだったんだろう。亡くなった男三人が直前に会っていたという共通項があるだけの女なのでは? 食によろこびを見出していただけの女なのではなかったか? こうしてただのいち読者である私もカジマナの魔法に絆されていったのであるが、里佳がカジマナの人生を追体験し彼女の内面をえぐり出していくにつれ、この女はただただ哀れな女なのだな……などと見方がじわじわと変わっていく。
꒦꒷꒦꒷꒦꒷꒦🧈𝑩𝑼𝑻𝑻𝑬𝑹🧈꒦꒷꒦꒷꒷꒦꒷꒦
【覚書】
梶井真奈子は己のルックスが世の女性たちよりは劣っている(男性の興味を惹かないであろうという意)ことをガン無視して「自分が一人前の女であることにOKを出していた」(p30)。そしてそれは決しておかしなことではない。里佳だって、「どんな女だって自分を許していいし、大切にされることを要求して構わないはずなのに、たったそれだけのことが、本当に難しい世の中だ」(p30)と考えている。
駅のトイレの洗面台で横に並んだ若い女性が、口紅を付け鏡に笑いかけたのを見て、「なんとなく優しい気持ちになって、彼女の後ろ姿を見送った」(p58)里佳は、その後彼女の風貌を思い出そうとして思い出せないことについて、「風貌ではなく彼女を取り巻く、自分をきちんと慈しんでいる安定した空気、そういったものに視線が吸い寄せられた」(p60)と振り返っている。自分を大事にしている女は周囲の空気すら穏やかにする。