和月 "アンチ・グッドモーニング" 2026年9月19日

和月
和月
@wanotsuki
2026年9月19日
アンチ・グッドモーニング
作品としてかなり好きだった。 眠れない人の話であり、世界に適応することを「正解」とする世の中へのアンチテーゼが盛り込まれたお話。 人々が笑顔で受け入れていくものと、見えない振りをして流されていく歪なもの。どちらも受け容れ続けた結果、主人公の心と身体は分離していく。眠れない中、意識が吸い寄せられるのは過去の小さな棘の数々。思い出した所で、何にもならない。変わらないと分かっていても尚、思考は止められない。眠ることができなかった日の質感が脳裏に迫ってくる程に、不眠の描写が上手い。 夜が終われば朝が来て、仕事は絶えず押し寄せてくる。絶望した所で眠ることも休むことも消えることも出来ない。世間ではホワイトな上場企業として評判の職場は、ポジティブな重圧をかけて、口角を上げたまま要求を続ける。 貧困、戦争、家庭内の不和等の直接的な加害性とは異なる、透明な苦しみの表現が凄い。 一定のルールで管理された世界が、角が取れて丸みの帯びた物たちが、人間の激情を統制して鎮静させる。 そして私たちは、怒りを放出する手段を忘れてしまう。 無意識の諦念を表現するモチーフがそこかしこに出てくる。セルフケアグッズ達は、それを求める者には素晴らしい代物だけれど、時として「自分で治して折り合いをつけて生きていきましょう」という圧力にもなる。 夫の献身的なケアと治らない己とそれでもやってくる朝に、次第に身動きが取れなくなる主人公の姿は、読んでいて息苦しく感じられた。 「30数年生きていても、いまだによかわからない。これだけの美しさを持ちながら、ときに信じられないほどの醜悪さを見せつけてくる世界をどのように信じればよいのか。」 すごく共感が出来て、切実な一文だった。 ラストの展開も好き。私はやはり、諦めて手放してしまう人よりも、自分の芯をグッと握りしめて、前を睨みつけながらも何とかクソみたいな世界を歩き出してくれる人が好きなのだと思う。
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