
なお
@nao_reading51
2026年9月21日

本心
平野啓一郎
読み終わった
平野啓一郎さんの『本心』を読んで、まず近未来小説としての設定の鮮やかさに引き込まれた。自ら死を選ぶ「自由死」が合法化され、AIやアバターが人間の役割を担う社会が描かれている。
主人公の朔也は、母が自由死を望んだ本心を知りたくて、AIで母を再現したVF(ヴァーチャル・フィギュア)を作る。しかしVFは、母がなぜ死を望んだのかという問いには最後まで答えてくれない。VFは朔也の記憶の中の母をもとにつくられており、死を選んだ母の決断は、朔也の知らない別の人との関係の中で育まれたものだからだ。ここで思い出したのが、平野さんの「分人理論」である。人は相手ごとに異なる自分、つまり分人を生きており、VFの母は朔也と向き合っていたときの分人にすぎない。まさに分人主義の視点から読み解ける場面だと感じた。
一方でこの作品は、技術がもたらす格差も描いている。リアル・アバターの仕事では、お金のある人は体験を買い、ない人はその代行者として他人の体験を生きる。自由死も、「本人の意思」の裏に貧困や孤立が隠れているのではないか。人間の尊厳とは何か、自由な意思は誰にでも等しく与えられているのかと考えさせられた。
