
和月
@wanotsuki
2026年9月21日
ツミデミック
一穂ミチ
読み終わった
真っ赤な表紙に大きく描かれた菊の花。
ギョッと目を引く装丁は、短編集の内容にぴったり。黄色い菊は仏花としても用いられて、「長寿・幸福」の花言葉を持つ反面、「破れた心」というネガティブな意味合いもある。
コロナ禍で生きる人々の“罪”に焦点をあてる本作は、感染症が蔓延する世界の閉塞感・鬱屈とした世相を緻密に描いている。
あの頃は大変だったなあ…と思い返すことはあれど、記憶は月日が経つと共に忘れている部分がある。様々な年齢の男女の目線からコロナ禍を振り返ると、当時私が感じていた苦しみはほんの一部であったことに気付く。
感染症が流行した時にどのように対策を行い、暴動が起こり、鎮静されていったのか。実録として資料を残すことは勿論大切だ。
他方で、その時を生きた人々の感情や思考をありのまま記録することは難しい。ドキュメンタリー等でコロナ禍の後を生きる人にフィーチャーすることはあるが、あくまで一過性の記録である。
物語の形で、結果や事実以外の部分を記録すること。その作品が直木賞を受賞して、今後も読み継がれていく作品になること。それらを経て今私が読みコロナの時代を振り返っていること。
全ての巡り合わせが有難く、得難い読書体験となった。
前半の少しグッと迫る締め方も好きだし、後半のどこか掬いあげてくれるようなラストも好ましい。この順番で並んでいることで、心にしこりが残らない読後感となっている。
特に「特別縁故者」が良かった!
他者に対して疑心暗鬼になったり、狭量になりがちな世の中で、人と人との繋がりによってどうにか一歩踏み出す活力を得る所が良い。
人生はそういう形で成立していて欲しいと、切に願う。
文庫書き下ろし作品も掌編ながら読み応えがあった。大人にならざるを得なかった子供たち。
彼女達が年齢相応に成長するまでに、割り切らず、諦めずに生きられる世界を作っていきたい。そう感じさせてくれるお話だった。
一穂ミチさんの一般書を読んだのが今作初めてだったので、これを機にたくさん読んでいきたい!


