うしみつや "ブラッド・クルーズ 上" 2026年8月21日

ブラッド・クルーズ 上
ブラッド・クルーズ 上
マッツ・ストランベリ,
北綾子
「豪華客船に吸血鬼が出てパニックホラー」という情報だけで読み始めたら、人間ドラマパートが面白すぎて吸血鬼来るなとさえ思っている。乗るな。来るな。という旨の感想を呟いたらXで拡散されてびびり散らかした。 実際にこの上巻の半分以上は、豪華客船に乗り合わせた人間たちの群像劇だった。入れ替わり立ち替わり現れるカタカナ表記の登場人物たちに、マッデだかカッレだかアッベだか覚えられないよ!誰だよ!ともなる。だが個々人の抱える背景がうっすらとでも見分けられるようになると、面白さが加速度的に上昇する。夫と死に別れ60過ぎにして冒険心から船に乗った老女、サプライズプロポーズに失敗して彼氏に振られた男、危ういバランスで成り立つちぐはぐな家族、失職寸前でやけっぱちの女……乗客たちはもちろん、気の良いバーテンダーや職務に忠実な警備員、すべてに怒りを感じている元スター歌手など、彼らが何者として船にいるのかという部分がわかってくる。そうすると、群像劇としてバラバラに語られる彼ら自身の話が、次第にもっと知りたくなる。吸血鬼とかいいよもう。来るなよ。そう思いはじめたころに不穏な影がさす。作者に良いように転がされている。
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