
和月
@wanotsuki
2026年9月24日
アフター・ユー
一穂ミチ
読み終わった
切なく、苦しく、愛おしい。
割り切れない気持ちと心に巣食った薄暗い秘密、そして日々の中に確かに在る愛情。グラデーションのように入り交じる感情の中で、消息を絶った彼女の痕跡を辿り、主人公はとある島を訪れる。
あらすじを全く調べずに読み始めた為、お話がどこに向かうのかが気になり、するすると読み進めた。直近で読んだ『ツンデミック』やそれ以前の作品でも感じたが、人の心の機微や善悪が混在する性を描き方が秀逸。
なんでもないように生活を送っていても突然決壊したダムのように涙がこぼれる。殆ど忘れていた感情が引き金になり衝動のままに動く。
それらの描写は、場合によっては不自然さが生まれる。物語を動かすための舞台装置になり過ぎない匙加減で、心の動きを捉えた絶妙な文章が好ましいと感じた。
キャラクターも良い。主人公である青吾に同行する沙都子は、何事も思い切りが良くて(良すぎて)、本人は大真面目なのに読んでいるとどこか面白い。どちらかといえば受動型の青吾との掛け合いは非常に軽快。彼女は、物語の重みを良い意味で軽減させてくれる彩度の高い人物だった。
電話ボックスでの対話がとても印象的。脳内で映像化したくなる場面だった。
今では見かけることも激減した場所だからこそ、どこか非日常な空気が漂う。テレカの度数といい、昔読んだ『ルート225』を思い出した。
わかりやすい結末ではない。
この後も青吾や沙都子の生活は続き、いつかこの本の中で描かれる数日は過去の思い出となるのだろう。しかし彼らの人生には、時折見失ったとしても地続きの愛がある。それを私は知っている。
星が見えない夜も、星はたしかに存在している。何年も前に喪われた星だとしても、その光は私達を照らしてくれる。そのあたたかい愛おしい存在に気付くための物語だと感じた。

