
ユメ
@yume_bookworm
2026年9月12日
丕緒の鳥 十二国記
小野不由美
読み終わった
感想
再読
表題作「丕緒の鳥」の他、「落照の獄」「青条の蘭」「風信」の計四編を収録した、珠玉の短編集。
『十二国記』シリーズの長編の主役となるのが王や麒麟であるのに対し、この短編集ではおそらく歴史には名を残さないであろう下級官吏や市井の民にスポットライトが当てられている。いずれの短編も国が不安定な時期を舞台にしており、そんな中でも懸命に己のすべきことをなし、日々を生き抜こうとする人々の姿が心の琴線に触れる物語ばかりだ。
四作中、三作は新王の登極前後の話であるのに対し、「落照の獄」だけは国が傾き始めた頃の様子が描かれている。他の三作に見てとることができる、苦しい状況下でようやく兆した希望に対し、「落照の獄」は絶望感に満ちており、この対比に王という存在の責任の重さを改めて突きつけられた気がした。
今回の再読で最も心に残ったのは、「青条の蘭」だ。十二国の世界には、王が現物を手にして路木に願うことで、翌年に国中の里木にその植物の実がつくという理がある。「青条の蘭」においては、王不在の荒れ果てた時代に山毛欅の病が流行し、人々の暮らしをますます脅かすのだが、下級役人が苦節の果てに薬となる野草を発見し、ようやく践祚した新王の元へ届けようとする。
その険しい道程を、名もなき善意の人々のリレーによって乗り越えてゆくのにも目頭が熱くなるし、舞台となる国名が徹底して伏せられている構成も巧みだ。終盤、彼らが目指す都、王宮の地名がとうとう明かされたときの、かの新王なら彼らの願いを必ず汲んでくれるだろうという安堵と感動が忘れがたい。


