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@x_toyanya_x
2025年4月9日

アルジャーノンに花束を新版
ダニエル・キイス,
小尾芙佐
読み終わった
借りてきた
はじめ、ちょっと合わないかもな……と思った。「こういう人って、こういう文章を書くでしょ?」という姿勢が逆に安易で差別的に感じて。けれど読み進めるうちに書き手にとっての語彙、知識、認識できる世界が増えていき、世界を言葉で切り取るということがどういうことなのか、はっとさせられた。
主人公チャーリィについて、神に与えられた十字架を背負い、向き合って生きていくべきだとするアプローチを取るキャラクターと、「治療」によって変えようとするキャラクターが登場する。また、彼の言動について、はじめの状態は子供っぽく、白痴だとされながら、一方で手術後のインテリよりも純粋だったと言われる。この物語ではどのように終焉を迎えるのか、そしてそれをどう捉えるのか、様々な考えを聞くのも面白そうだと感じた。チャーリィにとってどの状態が幸せで、この物語は悲劇なのか。
途中、「知らない」状態のチャーリィは仲間にいじめられ、蔑まれても全く気付かない。坂口安吾『桜の森の満開の下』を連想した。知らなければ認識せずにすむ悪意を感じ取ってしまうことへの恐怖。一方で、政治や宗教についてずっと「他のみんなのように」語りたいと思っていたチャーリィだが、実際に天才になるとその知識の膨大さに周囲が追い付かず、却ってできなくなってしまう。変化の渦中で描かれる知ることへの喜びと、それが齎す哀しみのコントラストが印象的。
また、チャーリィの衣食住、収入に問題がない点が面白かった。これは生きるための問題を扱った、人間の尊厳としての物語であり、かつ貧困など実際的な差し迫った暮らしについての物語ではないのだ。
