
り
@ryohei_13
2026年9月27日
踊りつかれて
塩田武士
読み終わった
結論から言うと、残念だった。
序章はすごかった。SNSや週刊誌、炎上、匿名で他者を攻撃することへの問題提起は、自分が普段考えていることとかなり近く、強く引き込まれた。
※ネタバレ
ただ、読み進めるにつれて残念な点が目立ってきた。
まず、全体的に展開が間延びしているように感じる。同じ内容を、後から別の人物がもう一度語る展開が多いのに、そこで新しい事実が明らかになったり、以前の出来事の意味が変わったりすることはあまりない。元々連載作品だったからかもしれないが、単行本として読むと冗長に感じた。
また序盤では、他者を匿名で誹謗中傷することや、自分とは直接関係のない出来事に「正しさ」を振りかざして介入することへの批判が、作品の大きなテーマとして提示されていたように思う。しかし物語が進むにつれて、美月の過去や瀬尾との関係の方に比重が移っていき、最初に強く提示されたテーマが次第に薄まっていったように感じた。ショージのエピソードも、美月の物語に比べるとかなり薄く、結果的には弁護士を登場させるための装置のように見えてしまった。
後半にあるショージの独白にも違和感があった。SNSなどで、無関係な他者が匿名で誰かを攻撃するのは良くない、という主張には完全に同意する。ただ、その主張を、不倫をしたショージ自身に語らせるのは弱いと感じた。
「人間は不完全で、それを笑いに変えられるのが芸人だ」、というショージの考えは分からないでもない。しかし、それは自分がした行いを正当化できるものではない。関係ない人間から好き放題言われる謂れはない、ならわかるが、免罪符にはならないはずだ。自分の行為への責任と、第三者による過剰なネット攻撃への批判は本来切り分けて語るべきで、そこが混ざってしまったことで、作品の主張そのものの説得力まで弱くなってしまったように思う。
構成面でも、「なぜ瀬尾はあの文章を投稿したのか」というホワイダニットを、もっと明確に序盤から物語の軸として提示できたのではないかと思う。その謎を中心に置き、読み進めるほどに瀬尾、美月、ショージ、週刊誌、SNSの問題がつながっていく構成だったなら、物語全体にもっと強い推進力が生まれたはずだ。
要素を増やしすぎた結果、物語が間延びし、最初に提示されたテーマまで弱くなってしまった印象がある。序章であれだけ強く現代的な問題を提示したからこそ、最後にはそのテーマに対する作者なりの答えを、もっとはっきりと読みたかった。