"銀河帝国の興亡2【新訳版】" 2026年9月29日

@sotaono
2026年9月29日
銀河帝国の興亡2【新訳版】
銀河帝国の興亡2【新訳版】
アイザック・アシモフ,
鍛治靖子
p18 「「そうですね。不幸なことに、無学な大衆は学問と魔術を混同しがちでしてね。恋愛とは、非常に多くの魔術的な助けを必要とするもののようです。」「確かにそうなのだろう。だがわたしはちがう。学間とは、難しい問題に答えを出す手段以外の何ものでもあるまい。」」 p31 「「ホバー・マロウなら、そしてサルヴァー・ハーディンなら、こうはしなかっただろう。暴力という不確かな道はほかの者に歩ませ、自分は確かで静かなやり方を選ぶ。」」 p46 「「いま攻撃しようと攻撃せずに終わらせようと、一隻で攻めようと帝国の総力で襲いかかろうと、軍事力を使おうと経済的圧力をかけようと、堂々と宣戦布告をしようと卑劣な急襲をかけようと。自由意志を最大限に駆使してお好きな方法をとられるがよろしいでしょう。それでもやはり、あなたは敗北するのです。」「死者たるハリ・セルダンの手によってか。」「とめることも曲げることも遅らせることもできない、人間行動の数学という死者の手によってです。」ふたりはにらみあったまま膠着状態に陥った。ついには将軍が一歩譲った。「挑戦を受けよう。」彼はさらりと宣言した。「死者の手に、生者の意志で立ち向かってみせ よう。」」 p72 「「いいだろう。ちょっと質問させてくれ。あんた、あんたの国も以前敗北したって言ったよな。どこにやられたんだ。外縁星雲からきた彗星人か」バーは視線をあげた。「帝国だ。」「なんだって?じゃあ、あんた、こんなとこで何してるんだよ。」バーは沈黙を守ったが、それが何よりも雄弁に答えを告げていた。」 p78 「「ですが、勇敢と無鉄砲は同じではないことをお心にとめていただきたいかと。敵をよく知り、どの程度の危険があるか、少なくともある程度の予測が立てられるときは、一か八かの賭けもいいでしょう。ですが、まったく未知の敵に立ち向かっていく蛮行を勇気と呼ぶことができるでしょうか。昼間に障害物コースを軽々と走り抜ける男が、夜に自分の部屋で家具につまずいてころぶのはなぜかと問うようなものです。」 p117 「そして、力ない闇をずたずたに切り裂く一万もの恒星からなる星団の中心に、巨大帝国の惑星トランターが周回している。だがそれは単なる惑星ではない。二千万の星系からなる帝国の、生きた鼓動だ。それのもつ唯一の機能は行政。唯一の目的は統治。唯一の産物は法律。」 p121 「この帝国首都惑星生民のせわしなく冷やかなありようを見ていると、恐ろしいほど陰鬱な孤独感にかられる。自分がなんの意味もない取るに足らぬつまらない存在であることを思い知らされる。」 p131 「「そうでしょうね。心理歴史学を学んでいないと理解しにくいでしょう。言葉は数学的方程式を曖昧に伝える代用品にすぎません。ですが、そうですね──。」 p140 「「大丈夫よ、お馬鹿さん。さあ、いつものように下唇をだらんとさせて、死にかけのアヒルみたいに情けない顔を見せてちょうだい──わたしの肩にもたれかかろうとするときのあの顔。静電気が起きるくらいぐしゃぐしゃに髪を撫でてあげるときの顔よ。あなた、甘ったるい返事を期待していたんでしょ。『トラン、あなたとならどこに行ったって幸せよ!』とか、『あなたといっしょなら、恒星間の深淵だってわが家だわ!』とか、わたしが言うと思ってたんでしょ。さあ、白状なさい。」」 p140 「見かけはいかにも気でガードがかたく、現実的かつ現実的な態度で毅然と人生に立ち向かおうとしている。だがその内側には、つついてもけっして姿をあらわしはしないものの、優しさの小さな池がある。やり方を知っていて──さらにはせがむような真似をしなければ、たどりつくことができる。」 p146 「「だがおまえはどうなんだ、トラン。いったいどこであんな綺麗な花嫁を見つけてきたんだ。」若者は小さな笑い声をあげて腕を組んだ。「三年がかりの苦労話をひと息で話せって?」」 p154 「「トランの言うとおりだよ、フラン。自分の奥深くをさぐって耳を傾ければ、おまえにもわかるはずだ。だがそれは不快な思考だから、おまえは大声をあげて否定してしまう。それでも心の奥深くではおまえもそれを認めているんだよ。トラン、わたしがなぜこんな話をはじめたのか、説明しよう。」」 p171 「空間的距離と同様、時間的にも距離があるほうが物事に焦点を定めやすいというのは、人類にとって不変の教訓である。」 p236 「ふたたびじっと見つめる。小さな人の形──ほんとうに人の形?──心が追いつかないほどすばやく身体を曲げたり回転したりしているあれは、ほんとうに燃える髪をした小さな女だろうか──そんな小さな人の姿が、星の形に集まって、ぐるぐるまわって──音楽はかすかな笑い声のようで──耳の内側ではじまる女の子たちの笑い声のようで。」 p244 「だが、こうした否定要素をすべてよせあつめ、合計を処理したあとに、何かが残る。そのおわるとは、部屋の半分を占める中身が空っぽのガラスのブースだ。三世紀のあいだに四度、ハリ・セルタンの生きているような画像がそこに腰かけて話した。そのうちの二度は、聴衆はひとりもいなかった。三世紀、九世代のあいだ、宇宙帝国の繁栄を見てきたかの老人は、おのが姿を映し──そしてなお、はるかな子孫の住む銀河系を、当のはるかな子孫たちよりもはるかによく理解していた。」 p250 「「そうよ、この人たちみんながね。」ベイタは断言し、そっと彼を揺すぶった。「そしてきっと、みんながみんな、あなたは銀河系一のすばらしい演奏家だ、こんなすてきなコンサートははじめてだって思うのよ。だからしゃんとして、まっすぐすわってなさい。威厳をもって。」」 p254 「ベイタはもう少しで泣きだしそうになった──悲しいからでも恥辱をおぼえたからでもなく、恐ろしいほど果てしのない絶望のためだ。」 p266 「「セルダンがわれわれの期待に応えられない」ランデュは親指の爪を嚙んだ。「それはすなわち、われわれの支柱が消えることを意味する。われわれはあまりにも長期間その柱にしがみついていたため、筋肉が美縮しきって、それなしでは立っていることもできなくなってしまった。」「そういうことさ。譬えとしては下手くそだがね。だがそのとおりだよ。」「そしてあなたはどうなのだ、エブリング、あなたの筋肉は。」心理学者は深々と葉巻を吸い、ゆっくりと煙を吐きだした。 「錯びついちゃいるが、萎縮してはおらんな。職業柄、ちいとばかり思考の独立性を維持してきたからな。」」 p324 「「あの……申しあげないほうがよろしいのではないかと存じます。その昔に教わったことなのですが、ヴィジソナーはもっとも奥深いところで神経組織に影響を与えます。むろん、あれは邪悪なものでございました。レディのごとき美しく穢れなき方には無縁のものでございます。」「あらあら、マグニフィコったら。わたしはそんなに清廉潔白じゃないわよ。そんなにおだてちゃ駄目。ねえ、あの人たちが見たものを、わたしも見たの?。」」 p325 「「マグニフィコ、あなたはほんとうに勇者の魂をもっているのね。」」 p340 「トランは挑むように答えた。「銀河にかけて、やってみせるとも!」」 p349 「「これくらいのことはすぐにわかったさ。ほかにもいろいろとな。わたしはときどき、自分の中で何が起こっているんだろうと不思議になる。さまざまなことが不明だったときのこともなんとなくおぼえているが、いまではすべてがはっきりとわかる。疑問などない。疑問に思えそうなものに出くわしても、なぜだか心の中に答えが見えて理解できるのだ。そしてわたしの推論は、理論は、いつだって実証される。わたしの中には衝動があって……いつだってわたしを駆りたてて……だからわたしはとまることができず……何かを食べたいとも眠りたいとも思わず……いつだって前へ……前へ……前へと──。」」 p371 「「すわってくれてかまわない。寝そべってゆっくり手足をのばし、くつろいでもいい。ゲームは終わった。話を聞いてほしい。これがわたしの弱点なのだ──人に理解してもらいたいと願わずにはいられない。」」 p377 「「彼女は、わたしが感情を支配しなくとも、わたしに好意を抱いてくれた。嫌悪することも、面白がることもなく、ただわたしを哀れんでくれた。純粋に好意を抱いてくれた!わからないか。それがわたしにとってどのような意味をもつか。かつて誰ひとりとして ──そう、わたしは……それを大切にしたいと思った。わたしはすべての他者を支配しながら、おのれの感情にあざむかれた。そう、わたしは彼女の心に触れなかった。干渉しなかった。自然の感情をあまりにも大切にしてしまった。それがわたしの過ちとなった──はじめての過ちだ。」」 p380 「「わたしたちが、トランとわたしが、あなたを負かしたのよ。これで満足して死ねるわ。」だがミュールの悲しげな茶色の目は、いまもなお、マグニフィコの愛情あふれる悲しげな茶色の目だった。「あなたの生命も、あなたの夫の生命も、奪いはしない。つまるところ、あなた方ふたりにこれ以上わたしを傷つけることはできないのだし、あなた方を殺したところでエブリング・ミスがもどってくるわけではないのだから。わたしの過ちはわたし自身のものだ。その責任はわたし自身でとる。夫とともに行くがいい!心安らかに去ってほしい。わたしが──友情と呼ぶものに免じて。」そこでふいに自尊心の欠片に突き動かされて、「わたしはいまもなおミュール、銀河系でもっとも力ある者だ。必ずや第ニファウンデーションを打ち負かしてみせよう。」ベイタは冷静に、確固たる確信をもって、最後の矢を放った。「無駄よ!わたしはいまもセルダンの知恵を信じている。あなたはあなたの王朝の、最初にして最後の統治者となるのよ。」いまの言葉がマグニフィコの何かに訴えたようだった。「わたしの王朝?そうだ、わたしもしばしば考えた。自分の王朝をうちたてたいと。ふさわしい妃を迎えたいと。」ベイタはふいに彼の視線の意味に気づき、恐怖に凍りついた。マグニフィコは首をふった。「嫌悪しているのか。それは愚かなことだ。もしすべてが逆に進んでいたら、わたしはいともたやすくあなたを幸福にしていた。確かにそれは紛い物の幸せかもしれない。それでもほんものの感情となんのちがいもない。だがすべてはこのように進んでしまった。わたしはミュールと名のっている──それは、わたしの力ゆえではない──そうとも──。」そして彼は、一度もふり返ることなく、去っていった。」
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