しんどうこころ "海うそ" 2026年10月3日

海うそ
海うそ
梨木香歩
リルケは『マルテの手記』の次にこれを読んだのは必然か。 土地と文化、風土と時間、そして喪失。 喪失は時間の経過がもたらす必然である。しかしそれを知覚する瞬間は突然訪れる。「在った」という過去と、「なくなった」という現実に突如として二分される。 人が知覚する喪失は、人間の死だけではない。土地も死ぬ。風土や文化でさえも、死を繰り返す。 私が生きたわずかな時間でさえ、幼少に見た景色がなくなっていたりする。時間は景色を変え得る暴力性を持つ。 しかし、存在したこと自体は痕跡として残る。死とは虚無ではない。記憶や土地に残されたものを通して、それは継承されていくとも言えるのではないか。 それでも、この本とにかく読後感が寂しい。かなり強い郷愁を覚える。 喪失とは変化であると理論的に腹落ちさせながらも、純粋に自分の愛したものがなくなるのは圧倒的に寂しいのである。 ふと、時間をおいて余韻に浸る。いつも通りの日常を送るが、その一つひとつが今までよりも、少しだけ愛おしい。
読書のSNS&記録アプリ
hero-image
詳しく見る
©fuzkue 2025, All rights reserved