
和月
@wanotsuki
2026年10月3日
多類婚姻譚
凪良ゆう
読み終わった
とても良かった!
痛烈に刺さる言葉があり、どうしてわかるの?と思わず問いかけたくなる場面もある。
現代の「婚姻」という契約制度が、従来の型から段々と変容しているようにも思えた。良い側面も悪い側面もあり、人と公的に結びつく関係が必ずしも幸せなのか、結びつかないことは不幸なのか、といった事を複数の視点で考えさせられる。
貧富の差や性的志向、価値観の違いによって「結婚」は千差万別だ。多様性が謳われる世界且つ資本主義社会である現代では、一昔前よりも更に細分化されている。
某雑誌の広告では「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私はあなたと結婚したいのです」と語る。果たしてそうだろうか?結婚でしか幸せになる術が見出せない層もいるかもしれない。或いは、結婚したいあなたといることで将来的に幸せが遠のくことも、あるのかもしれない。
日本は特に、昔から「幸福」が一義的な傾向にある。【良い大学を出て安定した就職をして結婚して出産して育児をして仕事も長く働き続けて、老後は悠々自適に暮らす。この一本道をシアワセと定義します。】
今はそれを大声で言う人は少ないが、これを標準とする風潮の中で育った人達が親になり、その子供が親となって、無意識下で培われてきた常識は、やがて思考の楔となる。
私達が別の道を歩きたいと考えた時に苦しむのも、一本道を歩けなくなった時に絶望するのも、旧来の一義的幸福が原因なのだと思う。
本書は、その「普通の幸せ」の中の結婚に焦点を当てて、個人の幸福と大多数が考える正解は必ずしも比例しないことを描く。綿密で丁寧な言語化によって表現されており、読んでいて本当に息が苦しくなる場面もあった。作中の彼彼女たちと私が生きている世界の繋がりを切に感じた。
特に印象に残っているのが「Beautiful Dreamer」と「Position Talk」。前者では被害者意識、後者では加害者意識を持って強く共感した。実家が太い人間に対する嫉妬と僅かな侮蔑意識、貧困に相応しい思考しか抱けない己への自己嫌悪が入り混じる感覚。性別を一括りに過剰に批判して、その上で悲しみや怒りの感情論を用いて相手を加害者に仕立て上げる卑劣さ。両方読んでいて胸が痛くなった。人は生きている限り、被害者であり加害者である。それを頭の片隅において、生きていきたい。
5つの短編全て、マジョリティの正解に辿り着く物語では無い。「Beautiful Dreamer」はある種その側面を持つが、正解でいることの難しさや、世間の正解をなぞることへの空虚な感覚が押し出されているように感じる。どの主人公も、人との摩擦や衝突の末、自分が掲げる幸福に向かって進む姿が描かれていて、苦しいのにどこか希望をもてる所が好ましかった。
【普通に安心して幸せに生きていたいし、それを誰かと補い合える関係が欲しい。その結び付きを公的にするものが結婚しかない。それがしんどい。】
私がずっと「結婚」という契約に感じていたモヤモヤを、言葉にしてくれたことが純粋に嬉しい。読めてよかった。





