
ななり
@bluebook_mark
2026年10月7日

わたしの知らない子どもたち
西川美和
読み終わった
《ないがしろにされずに生きたい。その希求を打ち消してまで人間が生きなければならない理由があるのか》という一文がこの小説の核にあると私は思います。女性の身体がモノとして売られ金に変換されることが国家単位で黙認されていた戦後の混沌の中では、そのような女性として生きる方が楽であるかのように、あるいは弱さを手放したかのように見られていたかもしれません。けれどそこには目を逸らしたくなる尊厳の収奪が当然の事ながらあった。戦争孤児となった主人公は、疎開先から戻ったそんな街で自らを男と偽って靴磨きやシケモク拾いで糊口を凌ぎ、時に仲間とともに反社会的組織から駒として扱われる日々を送る。過酷な貧困と恥辱に塗れながら、しかし彼女は誰かに身体を選ばれる不条理からは最後まで逃げ切る。弱さを手放さないことで尊厳を賭けた戦いに勝ったのだ。一個の人間として生きようと藻掻く子どもたちのその姿に何度も胸を打たれると同時に、本来あってはならない姿に心を動かされている自分は、いまの子どもたちがそうならない為に何ができるのだろうかと、読後しばし立ち尽くした。