
鈍獣
@whale_in_da_room
2026年10月9日
読んでる
細かい描写が丁寧
“ 玄関ではタマルが彼女を待っていた。五時になっていたが、太陽はまだ空高くにあり、その勢いはまったく失われていなかった。彼の黒いコードバンの靴は例によってきれいに磨き上げられ、その光を眩しく反射していた。ところどころに白い夏の雲が見えたが、それは太陽の邪魔をしないように、隅の方に身を寄せていた。梅雨が明けるにはまだ早すぎたが、ここのところ何日か真夏を思わせる日が続いていた。蝉の声が庭の木立の中から聞こえた。その声はまだそれほど大きくはない。どちらかといえば遠慮がちなものだ。しかしそれは確実な先触れだった。世界の仕組みはいつもどおりに維持されていた。蝉が鳴き、夏の雲が流れ、タマルの革靴にはひとつの曇りもない。しかし青豆にはそれがなぜか新鮮なことのように思えた。世界がこうして変わりなく維持されていることが。”
