本屋lighthouse "ナラティヴの被害学" 2025年4月12日

ナラティヴの被害学
本書は各種文学作品の読解を試みた論文集で、たいがい「じゃあそれがなんの役に立つの?」と言われてしまいがちなものでもある。しかし冒頭にて阿部が提示した「人文学の目的は暴力の否定である」ということ、そして「被害者と加害者というわかりやすい二元論に陥ることを避け、我々全員が持たざるを得ない加害性に向き合うこと」を念頭に置きながら本書を読み、かつその実践を自らの生活において試みることによって、はじめて本書の持つ意義は十全に発揮されることになる。 なぜその語られ方が採用されたのか。その語られ方によってなにが強調され、なにが隠蔽されたのか。その批判的まなざしを他者に向けることで、おのずと自らの語りに対してもその意識が向くようになる。私はなぜ語るのか、なんのために語るのか。私の語りはなにを強調し、なにを隠蔽してしまうのか。私のそのナラティヴは、私が意図した効果を世界にもたらすのか。「正しい」側にいる/いたいと自負する者にこそ、本書によって自省を促されてほしい。
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