本田読 "殺し屋の営業術" 2026年10月20日

本田読
本田読
@hoppusteppu45
2026年10月20日
殺し屋の営業術
社内で度々表彰されるほど凄腕の営業マン鳥井は、ある日の営業先で殺し屋の仕事現場に出くわしてしまう。 あわや殺害といった最中、鳥井は二億という莫大なノルマに頭を抱えていた殺し屋に自身の営業成績をプレゼンし、営業として雇ってもらうことで命拾いする。 この時、私は鳥井を裏社会に迷い込んでしまった不憫な一般人だと思っていた。 ところが、鳥井はその世界のルールを、自分の営業に利用し始める。相手も違法な世界にいる以上、脅されても警察には頼れない。その弱みを突き、かつて思いつきながらも試せなかった脅しや不退去といった営業術を、積極的に実行していくのだ。 ここで私の中の鳥井像が変わった。恐ろしい世界に放り込まれた一般人だと思っていたのに、その世界でこそ発揮できるものを、彼はもともと持っていたのではないか。そもそも、表の世界にいた頃からそうした手段を思いついていた、ということがじわじわ怖くなってくる。 表の世界では空虚さを抱えていた鳥井が、裏の世界でようやく生きている実感を得る。その姿には、自分の力を存分に使える場所を見つけた人の充実さえ感じられる。だからこそ、素直によかったとは言えず、かといって可哀想とも言えなくなった。 鳥井はこの世界に入ったことで変わったのか。 それとも、もともとあったものが解き放たれたのか。 読み進めるうちに、私の関心は殺しの世界のハードさから、そこに適応していく鳥井自身へと移っていた。最初は彼を傷つける人たちが怖かったのに、いつの間にか、そこで生きる実感を手に入れていく彼のほうが怖くなっていた。
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