あんどん書房 "図書館を学問する" 2026年10月22日

あんどん書房
あんどん書房
@andn
2026年10月22日
図書館を学問する
図書館専門誌『ライブラリー・リソース・ガイド』の連載の書籍化。図書館情報学の入門書だが、素朴な疑問に答えていくというスタイルや、元々がブログだったということであちこちに小ネタが仕込まれており(専門書で「打ち消し線」使うの初めて見た)、全くの素人でも全然読める。 「はじめに」で書かれている図書館情報学の成り立ちについては興味深い。19世紀ごろはOJT中心だった図書館職員だが、より専門的人材を育成するために開設されたのが専門学校的な「図書館学校」。そこから色々な分野で科学研究が盛んになる中で理論重視の「図書館学」が出てきて、さらに研究論文の整理や文献調査をコンピュータによって効率化するグループが合流したことで「図書館情報学」が生まれたとのこと。 そんな成り立ちがあるので、「図書館情報学者」と一言に言っても、司書を養成する教員、図書館の課題について調査分析する研究者、情報検索や活用について研究する研究者など色々あるらしい。最後のがいまいち具体的にイメージしにくいけど。 図書館自体にはそこまで関係ないが、学問分野には「ディシプリン(discipline)」と「フィールド(field)」があるという話はへぇ〜と思った。 前者は方法論が先立ち、後者は研究対象が先立つということらしい。いわゆる領域横断的なというのはフィールド系なんだな。 第一章からは具体的な疑問にデータで答えていく構成。図書館の棚で一番見られているのはどこなのか? とか、なぜ月曜休館が多いのか? とか。 読んでいて思うのは、図書館使いまくってるのに全然館内のこと見てなかったなぁ…と。棚が何段だったかも、書架番号が書いてあるのかどうかも全く覚えていない。今度行ったらちゃんと見てみよう。 “検索システムや電子書籍の利用が一般化してきた現代に、本の並べ方を決める理由が「探しやすいから」だけでいいのかは、再考の余地があります。探すだけなら、本と本棚にICタグでも仕込めばどんな並べ方であっても検索して見つけることができます。図書館ももっと、独立系書店がやっているような面白いテーマを設定して本を並べる本棚を作ってみてもいいはず……”(P17) なんとなく図書館側の人ってNDCこそ正義! みたいな感じだと思っていたので(偏見)、そういう意見もあるんだなぁと思った。現場の人だとまた違うのかもしれないけど。 個人的にはNDCだと初めていく図書館でもなんとなく位置感覚が掴めて助かるのだけど、「なるほど、ここの図書館はこういう本を置いてるのか…文化度高いな」みたいなキモい見方する利用客は少数派かもしれないので、文脈棚もありなのかもしれない。まあその辺は利用者層で使い分けていくのが正解なのかな。利用して欲しい層よりは実際に使ってくれてる層向けに。 月曜休館の疑問については「もともと日曜休館が一般的だったのが開館になり、その代休」という肝心のなぜ月曜なのかは不明(なんとなく翌日にした?)というチコちゃん的回答だった。しかし日曜休館だと大人も子どもも不便でしょうがなかったろうな。その頃ってまだ土曜も半日登校とかだったはずだし。 ちなみに最寄りの市立図書館は火曜休館だが、県立は月曜休館。うまく分けられていて助かる。 「貸出関数」というまた専門的な話が出てくるが、要はどんな要因が貸出数に関係するのかということらしい。たとえば車での利用が多い図書館では雨はそこまで関係しない…とか。 ただ、この貸出関数がなかなかに厄介で、有用度の地域差がとても大きいらしい。その要因が何かはまだ不明なのだと。 図書館って館ごとに多種多様だから、規格的なデータ調査は難しいのだろうなぁと思う。 図書館利用者のクラスター分析の話では、様々な図書館利用者が可視化されている。自分は本を借りるぐらいなので、定年後に一日図書館で新聞を読んで過ごす層のことなんて全然考えたこともなかったなぁ。 分析対象データとしてたびたび出てくる国会図書館による調査データ「NDL情報行動調査」では図書館にどんな機能を求めるかというアンケートも行われているのだが、「起業相談」とか「プログラミング教室」「ハッカソン」「宿題支援」などなどの項目に文化格差を痛切する。そんな小洒落たイベント、地方図書館に無えよ!! 絵本読み聞かせ会と映画鑑賞会以外のイベントを見たことがない。だから長岡の互尊文庫を見た時は軽くカルチャーショックだった。岐阜のメディアコスモスとか見たら死んじゃいそう。我が地元ももう少し頑張ってほしい。(どちらかというと県立の方がチャレンジングなことをしていて、地元の書き手たちのZINEを収集して郷土コーナーに入れたり、ロビーで古本市を開催したりしている) 他に面白かったのは13章「人々は図書館のどんな写真をSNSで発信しているのか」。 #図書館 タグの多くは実際のところ図書館で借りた本の記録として付けられているらしい。個人的にはそれが著者に届いてしまい得るのはちょっと露骨であれだなぁと思う。まあ自分もほとんど図書館本なのだけど、微妙にぼかす感じにはしてたり…。 “本棚の効用の一つはアピールであり、威嚇になるということです”(P158) なんて微妙に棘があったりするのも面白い。 ミーハーな自分は新刊本を予約して話題が冷めないうちに読んで…みたいな使い方ばかりだけど、図書館にはいろいろな人が来て、それぞれの関わり方をしているのだなぁというのが何となく知れて面白かった。 これから何らかの研究をしようとしている学生こそ読むべき本だと思う。どうやってテーマを設定してどんな分析手法で取り組めば良いのか、という大学教授の試行錯誤が読めるのが一番面白い。大学出てないと知れない世界だ。 あと個人的に思った点としては、おそらく棚配置と視線の研究とかは書店のマーケティングなんかでも行われていると思うんだけど、そういうところと接続しないのかな?と。それぞれバラバラにやってるよりデータも増えそう。企業秘密とかあるのかもだけど。 本文書体:筑紫明朝、セザンヌ カバー・表紙・扉イラスト:asumin 装丁:ナカグログラフ[黒瀬章夫]
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