
ピエ
@pie_202
2026年10月22日
海と山のオムレツ
カルミネ・アバーテ,
関口英子
読み終わった
タイトルと表紙があまりにも美味しそうで手に取ってしまった。
食いしん坊(私も!)におすすめの小説。作者自身も食べることが大好きで、日々の食事を大切にしていることが伝わってくる。
内容は、幼少期からの食べ物にまつわるエピソードを綴った自伝的小説だ。作者のアバーテはカラブリア州(イタリアの長靴のつま先部分)の出身で、アルバニア系の村「アルバレシュ」の一つに生まれた。オスマン帝国の侵略から逃れ、15世紀頃から移り住み始めたアルバニア人たちが、今も南イタリアやシチリア島に共同体を維持しているとは知らなかった。
日常の食事は、カラブリアらしく唐辛子の効いた激辛の料理が多い。また、ウチワサボテン(フィーキ・ディンディア)が多く生えているというのには驚いた。てっきりメキシコのように葉の部分を食べるのだと思い込んでいたが、後から調べると、カラブリアでは実をそのまま食べたりジャムにしたりするのが主な食べ方のようだ。少年時代のアバーテが好んでいる描写が疑問だったが、甘い実を食べていたのなら納得だ。
アバーテら子どもたちは両親に愛され、幸せそうな家庭に見える。しかし、アルバレシュの人々は地元では労働力を安く買い叩かれており(そもそも南イタリア自体の経済問題もあるだろうが)、父親たちは皆ドイツまで出稼ぎに行く。友人たちも義務教育を終えたらハンブルクに移住し働く中、アバーテ自身は大学を出て教職に就いたが、初めはドイツや北イタリアを臨時教員として転々とすることになる。
故郷を離れて作る料理は、材料が手に入らなかったり以前ほど手間を掛けられなかったりといった理由で変わっていくわけだが、アバーテはそのことを肯定的に捉えているように思える。
かれの尊敬する友人、「アルベリアのシェフ」の言葉は、この本を象徴するものだと感じた。「どこへ行っても、その土地特有の味というものがある。…大切なのは、自分たちの土地の味に、新たな味を加えていくことだ。根っこの部分に郷里の味があるかぎり、べつの場所で暮らしていても、その土くれの香りは失われないはずだ」(p.104)
アバーテとドイツ人の妻の食卓も、それぞれの故郷の要素が入り混じっている。世界中で無数に派生していく移民たちの料理を思い、その力強さを感じる本だった。




