みーる "鶏まみれ" 2026年10月26日

みーる
みーる
@Lt0616pv
2026年10月26日
鶏まみれ
鶏まみれ
繁延あづさ
【熱を感じる文章力】 本業はカメラマンとは思えないほど、文章から伝わる熱量にページをめくらされた。特に、食鳥処理場で初めて首切りを行う場面や肝抜きをする場面の臨場感といったら。まるで、何か怪物と戦ったあとのような作業後の血まみれ描写。次々と流れてくる鶏、鶏、鶏。頭で考える間もなく手を動かさなければついていけない状況。理屈よりも感覚のままそのカオスな時間がありありと描かれている。読者を引き込む力がある。 【恐ろしくタフな生活】 そもそも、子どもが3人いて、養鶏営業を立ち上げながら、食鳥処理場で働く、そこにカメラマンの仕事や執筆の仕事…いやここまでタフな人がいるのか…と舌を巻くと同時に羨ましくも思った。なぜなら、作中に「つかれた」「やめたい」という表現はもちろん、そう感じるようなところが一切なかったからだ。目標に向かって一歩ずつ進んでいく姿、気づけば3年以上食鳥処理場で働いて、その労働環境を少しでもよくしようと上司に掛け合う姿からは、繁延さんの内から湧き出るエネルギーの塊みたいなものを感じた。自分はどうしてもバランスを取ってしまう。疲れ切らないように、無理し過ぎないように、余裕を残すようにしてしまう。突き抜けられない自分の姿をみせつけられたような、そんな感覚。なにかを1から初めてみる。一生に一回はそんな衝動に突き動かされるまま生きてみたい。そんなふうに思った。 【バッタを倒しにアフリカへのややシリアス版】 間違いなく初めて読むはずなのに、似た空気感を感じるときがある。本作を読み進めるとどうやら養鶏の話らしいということがわかる。さらに、養鶏で生計を立てるために食鳥処理場で3年以上働かなくてはならないことが判明する。 果たして働けるのか…という所で、「あっ、これバッタっぽい」と気付いた。「バッタを倒しにアフリカへ」と同じ類の熱量。なんだろう、誰かに言われてやるでもなく、やらなければいけないからやるでもない、当人の魂から漏れ出る溢れんばかりの熱量に突き動かされる感じ。バッタの方は刺激的なエピソードや外国ならではのハプニングが中心で比較的ポップな内容だった。一方、鶏は、どこまでも日常が続いている。特段、ハプニングを描いているわけでもなく淡々と書かれている箇所も多い。だからこそ、スーパーで並んでいる鶏を安い高いでしか判断しない僕たちの口に届くように「生き物」から「肉」にする仕事の人たちが必死になって働いている事実がみえてくる。あくまでも、日常なのだ。食鳥処理場という仕事はコロナ禍でも止めることができない。残酷なまでに社会の一部として明日の朝も明後日の朝もそこに在り続ける仕事なのだ。エッセンシャルワーカー、医療関係者や運送業者の陰に隠れて今日も「生き物」を「肉」にしてくれている人がいることを忘れてはいけない。繁延さんは「生きること」「殺すこと」「食べること」の流れを見て気づいた揺らぎを丁寧に表現されていた。一度も「こうあるべきた」と断定した表現はなかった。何も知らない僕が何かを言えることはないけれど、そういう人の仕事が巡り巡って自分の生活に直結していることを知っておかなければならない。そう思う。でも、現実はやっぱり自分の目に映る範囲のものになる。だから、数日したらこのこともきっと忘れる。何がきっかけでまた思い出すかはわからないけれど、必要なときに自分のもとにきっかけが巡ってくるのだろうな。 【子供達が優秀。長男。】 3人の子供たちの成熟具合がとてつもない。小1ってこんなに話せるものなのか…核心めいたことを言うし、これは繁延さんの子供だからなのか?特に長男は経営者かと思うほど大人びている。小6で「ゲームの代わりに鶏飼わせて」とはならんやろ…すごいな本当に。 【誰でもできる仕事だから最低賃金なわけではない。】 作中、食鳥処理場の時給が最低賃金なことに疑問を抱いていた繁延さん。「こんなにとおとい仕事なのに最低賃金なのはおかしい」僕もそう思う。当たり前にあるものって当たり前にあるが故に、その大切さを忘れてしまう気がする。当たり前にスーパーに肉が並び、消費者の口に入る。「食べる」という行為は直接的に「生きる」行為につながる。人間は生存と繁殖のみを目標としなくなったから、食べることは当たり前で、それよりも健康的か、おいしいのか、高級なのかに目を向ける。当たり前の根底を支えている食鳥処理場の仕事が最低賃金なのもそういう部分からきているのかな。実際はもっと複雑な何かがあり、一つの因果関係では説明しきれないのだろうけど。血にかかわる仕事は穢れ仕事と呼ばれてきた背景も深く関わっているように思う。 それにしても繁延あづささんは興味深い人だ。実態が掴めないというか、現実に存在している感じがしない。不思議な人だ。これからも動向を追い続けたい。
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