楓 "本と鍵の季節" 2026年11月1日

楓
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@kaede_tea
2026年11月1日
本と鍵の季節
本と鍵の季節
米澤穂信
一話ずつ読んだ事の感想や考えた事のまとめ。 コンビの関係性について主に書いています。  第五話「昔話を聞かせておくれよ」 ※思いっきりネタバレしています。 ※シリーズニ作「栞と嘘の季節」まで読んだ感想なので「栞と嘘の季節」のネタバレにも注意! ※腐向けっぽい表現があります。  ↓        ↓      ↓ 長いです。       ※引用のページ数は全て文庫版「本と鍵の季節」より        何気にここまで学校の中で堀川くんと松倉が図書室以外で出会うシーンってなかったので少し新鮮に感じる。(p236) ちゃんと「やぁ」と挨拶するのだなぁ。図書室以外の場所で二人が出会うシーンから始まる事が、これまでと違う展開を示唆しているようにも感じる。  そしてこの話のタイトルの通り、図書室でふたりの昔話が展開されますが、コンビ好き的には 『「―最近になって、一文の得にもならないのに他人の相談に乗る変わったやつと知り合ったこともあり、思いもかけずひとの問題を解決したりしなかったりするようになったのです」』(p254)という松倉の昔語りの締めの言葉が気になる。 以前、堀川くんは『松倉詩門と付き合うようになってから、それまで思いもしなかったことを見聞きするようになった。』(p76) と、松倉という不可思議な存在がいるから事件が起こって、謎解きをする事になると言う風に語っていたけれど、松倉の方は堀川がおらんかったらここまで人の為に謎解きしてないって思っているようで面白い。私は常々、松倉が一緒に謎解きをするのは隣にいる堀川くんの事を放っておけなくて、参加せざるを得なくなっているところがあるんじゃないか?と思っているのですが、(第一話「913」での事があるし)この発言を聞くとやっぱりそうなんじゃないか?と思ってしまいます。 堀川くんも、心のどこかでは松倉が全部自分の打算だけで動く人間ではないとわかっているからこそ 『そのぜんぶで松倉は、彼の主観では嘘に踊らされているに過ぎない僕と一緒に、なんとか解決を導き出せないか探っていたじゃないか。僕はただ人の頼みを断れなかっただけだ。いいやつは、松倉の方だ。』(p258) と述べているんじゃないかなと思う。松倉って、困っている人全員を助けたいとは思わないけれど、自分が大事だと思っている人の為にはどこまでも情が厚く、そして結局、目の前の誰かが本当にピンチに陥っているのを見たら放っておけない奴なんじゃないかな?と思うし、そういうところが私は好きです。  後、少女漫画で育ってきた人間なので少女漫画だったら『変わったやつ』というのは最高の誉め言葉で、主人公の事を相手が好きなフラグなんよ……!とか、思ってしまったり。😅 ここで考察。    前の章で松倉は図書委員としてしっかりした姿を見せていたのにこの章では堀川くんが委員の仕事やっている最中、松倉はぼーっとして仕事していない状態になっている。 松倉はサボる気はなかったんだろうけども 『委員としての仕事をぜんぶ放棄していたのだから、それはさぞ暇だったことだろう。』(p241) と堀川くんにはしっかりサボリ認定されています。 これで思い出すのはこの章の初めに再登場した「サボり癖」のあったあの先輩。 松倉は意識的にか無意識的にか?「先輩」と似た行動をとっているように見える……。 また、 個人的になんで松倉はこのタイミングで過去について堀川君に話したくなったのか?と思ったことを。 それは小説で明かされている通り、彼が話したくなるような状況が色々重なったからというのが一番だと思うんだけど、もうひとつ事務室の前での、堀川君との出来事も彼の気持ちを揺るがしたんじゃないか……?と。 この章の最初のシーンで、松倉はなぜ自分が事務室に来たのか?堀川くんにその理由を簡潔に説明しますが(p237)彼的にはこれを言うのは中々勇気がいる事だったんじゃないかと思うんです。 これは下手すれば次の章「友よ知るなかれ」で松倉の言う「弱み」(p345)にもつながる事情だと思う。 しかし、某先輩が事務室にいるのを見つけたら堀川くんは松倉よりも先輩の事情の方に関心が傾いてしまった。 松倉も、別に堀川くんに心配して欲しくて話したわけではないんだと思う。 でも、ここで友達が自分よりも他の人間の事情を気にしているのはなんかちょっと微妙な気持ちにならないか……? 要約すると、  「先輩より俺を見ろよ!」と、堀川くんの関心を先輩から取り戻したくて家族の事情を話したくなってしまったというのも、もしかしてあったんじゃないか……?と。 これは思いっきり私の勝手な見方かも知れない……!(穿った見方をしてごめんよ、松倉💦) でも松倉が意図した事でないにしても、「昔話」を話した事で堀川くんの関心が先輩の家の事情から松倉家の事情にシフトされたのは確かでしょう……。    それでもって本題の宝探し。 この宝探し、いつもと2人の役回りが逆転しているようにも見えるんですよね。 堀川くんの方が「松倉。僕に嘘をついてないか?」(p305)とか「昨日は聞かなかった」(p313)とか。 いつもなら松倉が依頼人に言いそうな疑問を挟んでくる。 特に「昨日は聞かなかった」はなんかこう、静かに相手を咎めてるように私にはちょっと聞こえるんだよなぁ……苦笑 近い関係になってきたからこその、相手の不実を見逃したくない感じ。 松倉以外の人間には、堀川くんはこんな感じにはならんのよ。 そして、この宝探しのキーアイテムといえば「本」と「鍵」。 堀川くんが「本」を見つけて松倉が「鍵」を見つけたのが、象徴的にも感じる。 「鍵」は実生活で使うもの……松倉が求めている「宝」の場所を開く鍵、つまり実際的に使い用途があるもの。 「本」は『本棚を見れば持ち主のことがわかるそうだ』(p40)という松倉の台詞が「913」であったけど、それを踏まえると堀川くんが関心を持っているのは「人の心」なんじゃないか? (それも特に松倉の心なんじゃないか・・・・?←コンビ好き的に重要) 松倉の父親の本が何故あんな状態だったのか気づいたのも、父親の本の扱いに怒った松倉に、親への誤解を解いてあげたかったという気持ちからなんだよな……。 また、この回は堀川くんが語りの中で  『小学生の松倉が那須で見た星空はどんなだったろうと、ふと思った。』(p308)と、かつての松倉の幸せを想像し、今の松倉にとっての幸せは何なんだろう?と、松倉の幸せについて想いを馳せているようにも感じられる語りがさりげなくあるのが好きです。  最後、月が雲に隠れていく描写(p321)は紫式部の「めぐりあひて」の歌をちょっと思い出してしまった。  「めぐり逢ひて 見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かげ」(紫式部 百人一首 五七番)  この歌は紫式部が幼馴友達との再会を詠んだ歌なのですが、親しい友と久しぶりに会えた特別な時間があっという間に過ぎ去ってしまう、その感慨について詠まれています。  (こちらの和歌については「角川ソフィア文庫 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 百人一首(全)」谷知子 編を参考にして書いています。) その状況とはまた違うのですがその歌を踏まえてこの情景描写を見ると   松倉の事が少しわかった、心が通い合った、と思った途端、またわからなくなってしまう― そんな堀川くんから見た松倉との心のふれあいの様子が幻想的な月の描写によって際立たせてくれているような気がします。        次はいよいよ「友よ知るなかれ」    この次の章があるからこそ、私はこの小説がここまで好きなのかも知れないと思います。 この回での出来事を踏まえて、堀川くんが今まで取らなかった行動をするところが好きです。 補足:この章で出て来た清張とスティーブンソンの宝島について    ※松本清張とスティーヴンソンの「宝島」について少し述べているのでこの二作品の小説についてのネタバレ注意!    ↓  ↓       米澤先生は以前、小説丸のインタビューで『―松倉の存在が窓となって、物語の中に社会の風が吹き込んできていればと思います』<STORY BOX2019年1月号掲載>(ネット記事 https://shosetsu-maru.com/interviews/authors/storybox_interview/67) と語っていますが、その松倉の父親の持ち物に社会派ミステリーの代表作家である松本清張の『零の焦点』をチョイスしてきたのは象徴的な感じがします。   そして松倉、スティーブンソンの「宝島」を読んだ事ないって言うの、嘘だと私は思うなぁ。 というか、「読んでない」とは言ってないか。「新宝島は読んだな」(p244)と答えたのはごまかしなのではないか? 何故ならこの小説のとある登場人物が松倉に似たところがあるなぁと思うからです。 (私は堀川と松倉の読書の趣味について知りたいぞ……!)
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