鍋の底
@nabebosoko0829
2025年4月15日

ギリシャ語の時間
ハン・ガン,
斎藤真理子
読み終わった
ただ想像の中でだけだけれど、薄いジャンパーをひっかけて僕はドアの外へ歩き出す。真っ暗な舗道のブロックを一歩一歩踏み締めて出ていくんだ。暗闇の布が薄青い糸にほどけて僕の体に、この街にからみつき、包んでくれる光景を見る。めがねを拭いてかけ、両目を見開いて、その短い青い光に顔を浸すんだ。/信じてくれるかい。そう思うだけで、僕の胸は高鳴るってことを。(p.98)
数えきれない舌によって、また数えきれないペンによって何千年もの間、ぼろぼろになるまで酷使されてきた言語というもの。彼女自身もまた舌とペンによって酷使し続けてきた、言語というもの。一つの文章を書きはじめようとするたびに、古い心臓を彼女は感じる。ぼろぼろの、つぎをあてられ、繕われ、干からびた、無表情な心臓。(p.197)