ギリシャ語の時間

43件の記録
- 鍋の底@nabebosoko08292025年4月15日読み終わったただ想像の中でだけだけれど、薄いジャンパーをひっかけて僕はドアの外へ歩き出す。真っ暗な舗道のブロックを一歩一歩踏み締めて出ていくんだ。暗闇の布が薄青い糸にほどけて僕の体に、この街にからみつき、包んでくれる光景を見る。めがねを拭いてかけ、両目を見開いて、その短い青い光に顔を浸すんだ。/信じてくれるかい。そう思うだけで、僕の胸は高鳴るってことを。(p.98) 数えきれない舌によって、また数えきれないペンによって何千年もの間、ぼろぼろになるまで酷使されてきた言語というもの。彼女自身もまた舌とペンによって酷使し続けてきた、言語というもの。一つの文章を書きはじめようとするたびに、古い心臓を彼女は感じる。ぼろぼろの、つぎをあてられ、繕われ、干からびた、無表情な心臓。(p.197)
- 無限の上機嫌!@joukigen2025年3月31日かつて読んだ午後はTさんと打ちあわせ。Tさんの家にくると、いつもリヴィングのテーブルの横にいま読んでいる本が積んである。今日はハン・ガンの小説が数冊あった。 なん年かまえに『ギリシア語の時間』を読書会で読んだ。そのとき読書会のメンバーのひとりが『すべての、白いものたち』はきれいすぎて好きではないといっていたのを私はおもいだした。『ギリシア語の時間』はよい小説だった。 チーズケーキをいただいて休憩をしていると、いま読んでいる本のはなしになった。ハン・ガンのことが話題になり、私はそのことははなさなかった。 Tさんは、ハン・ガンの横においてあった本を手にとった。台湾の画家についての小説だと教えてくれた。ひどい翻訳で読むのに疲れるともいった。
- Suzuki@finto__2025年3月9日読み終わった★★★★☆ 「君が僕を初めて抱きしめたとき、あの身振りに、若い、痛切な、隠しておけない欲望を感じたとき、鳥肌が立つほどはっきり僕は悟ったのだと思う。人間の体は悲しいものだということ。へこんだところ、やわらかいところ、傷つきやすいところでいっぱいな人間の体は。腕は。脇の下は。胸は。股は。誰かを抱きしめるために、抱きしめたいと思うように生まれついている、あの、体というものは。 あの季節が終わる前に君を、一度でいいから、壊れるぐらいに、真正面から抱きしめなくてはいけなかったのに。 それは決して僕を傷つけはしなかったろうに。 僕は倒れも、死にもしなかったろうに。」p145-46
- はる@tsukiyo_04292025年1月21日かつて読んだ静かに、繊細に紡がれていく言葉が印象的だった。 主人公が捉えている景色や感覚、思考が、詩のようだった。 話せなくなった女性は、これから先、話せるようになるかは分からない。 ギリシャ語講師の男性は、今後も少しずつ視力を失っていくだろう。 問題は解決されないまま残っている。 しかし、二人の人生は光に満ちていくのではないかと思える。 彼らが身体を触れ合わせている時間は、慈しみ合っているように見えた。
- ミキ@miki___632025年1月5日読み終わった読み返して、好きな一文に付箋をつけていく ー 中でも彼女がいちばん好きなのは、숲(森)という言葉だった。昔の塔のような形をした、造形的な文字である。 ー 発音するときは、まず唇がすぼみ、次に風がゆっくりと、用心深く漏れてくるような気がして、彼女はその感じが好きだった。そして最後に、閉じられる唇。沈黙によって完成する言葉だ。音も意味も形も静かなその単語に惹かれて彼女は書いた。숲、숲と。 (ギリシャ語の時間 P. 015)