
阿久津隆
@akttkc
2025年1月7日

石灰工場
トーマス・ベルンハルト,
飯島雄太郎
読んでる
布団に入ってベルンハルト。コンラート夫妻の朝。
せかせかと手を動かして髪を梳かしながら、お盆の上の食器を机に移さないと、と思う。そしてお盆を机に載せる。まず薬罐を火にかける。それから大急ぎでパンにバターかマーガリンを塗る。もちろん最近はもっぱらマーガリンだけどね。そうしていると眠れた?と妻が訊ねてくる。眠れた?と私も訊ねる。妻が答え、私が答える。もちろんダメだった、と妻が答え、私ももちろんダメ、と答える。
p.117,118
それからお昼。
ヘラーが下に来てるぞ、と言う。すると妻がぱっと顔を輝かせる。そして妻が穏やかになったのを見ながらそのまま下へと降りていくんだ。玄関へと降りていきながら、料理は冷めてしまっただろうな、料理を抱えたまま、氷のような寒さの森や岸辺にずっといたんだから、と思う。そして扉を開き、湯気を立てている弁当箱を見ると料理はまだあったかい、今日はあったかい料理が食べられるんだ、と思う。台所まで持っていって温め直したりしないでもいい。すぐに妻のもとへと持っていける。そして即座に配膳を済ませる。私の配膳の速さといったら妻をびっくりさせるほどだ。けれども妻が一番びっくりするのは弁当箱の中に炒めたレバーが入っていること、さらにレタスのサラダまで添えてあり、一番下の段には私たち二人の大好物であるセモリーナ粉のスフレがあることに気づいた時だ。食事が終わったら、すぐに訓練を再開しよう、大好物を食べた後だったら集中力も上がるだろう、と思う。けれども食事が終わってもすぐには訓練を始めたがらない。大好物を食べたんだからすぐ訓練してもいいと思っているんでしょう、と言うんだよ、とフローに言っていたとのことだ。そういったやりとりがあってようやく訓練が始まる。その時には妻も協力してくれる。
p.120
びっくりするほど明るい、幸福な場面で、ベルンハルトの小説で、こんなふうに他者と何かを分かち合うという場面は覚えがない。ベルンハルト史上最も幸福な場面だと感じる。もちろんコンラートは異議を唱えると思うが。でもとにかく僕にとっては幸福に感じる場面で、だからこそ読んでいて悲しみが湧き、広がっていくのを感じた。最後は妻を射殺するので。






