ゆい奈 "落穂拾い/犬の生活" 2025年1月17日

ゆい奈
ゆい奈
@tu1_book
2025年1月17日
落穂拾い/犬の生活
8篇、読んだ。なかでも『桜林』と『犬の生活』が好みで、とりわけ『犬の生活』はかなりよかった。 殆ど訪問客は来ず、たまに人と話すとこなれの悪い食べ物を食った後のようにしばらくは気色悪いという男が主人公。彼は”退屈”は気心の合った友達のようなもので、誰とともにいるよりも”退屈”であるほうが好ましく、楽しいといい、徒然というものも、幸福感の一種なのかもしれないという。私もそう思う。 しかしそんな男が犬(公園で居眠りから覚めたときにそばにいた捨て犬)を飼いはじめ、生活は一変する。引っ込み思案で不規則な生活をしていたはずが、犬に朝ごはんをやらねばと早起きしたり、普段は気にもかけなかった動物病院や、散歩中のよその犬を気にかけ、おまけに大家の婆さんとも仲良くなるなど、もうそれはそれは大変愉快。 自分以外のなにかを想う気持ちというのは、とてつもない強さの原動力になるのだな。終始ほがらかでこちらまでもが幸せになれるいい小説だった。 「人間が抱く感情の中で、やはり寛容は非難に優るものである。ひとを非難するということは、それがどんなに正当に見えるような場合でも、虚しい仇矢を放つようなものである。」(犬の生活より) そもそも主人公の男の心根が優しい。私小説ということなので小山清もこういう人間性だったのだろうな、というところが他の小説にもあって、しみじみ良い作家。つづきはまた明日。(今から全集へ)
落穂拾い/犬の生活
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