ヨル "変愛小説集" 2025年4月23日

ヨル
ヨル
@yoru_no_hon
2025年4月23日
変愛小説集
変愛小説集
岸本佐知子
『僕らが王星に着くころ』レイ・ヴクサヴィチ(著) 皮膚が宇宙服に変わっていく原因不明の皮膚病。全身宇宙服が完成したら宇宙に飛び立ってしまい、宛もなく彷徨うことになる流行病。ジャックは恋人モリーの出発を止める手立てはないか、または一緒に出発できる方法はないかと必死に思考をめぐらせる。 ありえないような笑ってしまう展開でもあるけど、離れ離れにならない手立てはないかと必死に考え続けるジャックと、もう諦めるしかないと腹を括っているモリー、その2人の関係がなんとも切ない。宇宙に飛び立っていくときの様子が皮肉にも美しいことも。 「高度が上がり、明るい太陽の下に出ると、ジャックは窓の外に幻想的な光景を見た。あやうくほら、と指さしかけて、思いとどまった。宇宙服に身を包んだ一団が、スモッグの中を上がっていく。まるで板に載せて一度に放りあげられたように、ひと塊になって、くるくると縦に横に舞っていた。膝を抱えて回っている人。勇ましく手足を伸ばしたテレビのスーパーヒーローのポーズで飛んでいく人。バック転。側転。なかに一組、手をつないでいるカップルがいた。(中略)と、眼下の建物が密集したあたりから、宇宙眼の人々が空に上がっていくのが見えた。出てきた場所はばらばらだったが、だんだんとゆるく一つにまとまり、やがて空高く消えていった。」(p36より引用) 「わたしは、人類は神様が水槽の水を慣らすためにとりあえず地球に入れた安物の熱帯魚だっていう説が好きね」とモリーが言った。「そろそろ神様が何か別のきれいで珍しい生き物を入れたくなって、わたしたちはポイされるってわけ」(p40より引用) 他の惑星には花は咲くのだろうか。ましてや桜なんて、ないだろう。この地球がどれほど美しい場所であるか、考えずにはいられない。
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