
あまぎ
@zfch8888
2025年5月2日

流れる星は生きている改版
藤原てい
読み終わった
P.157
「日本人、ほんとうに気の毒だと思っています。だが、今あたなにものを上げると、私は村八分にされます。今まで私たちが苦労していたのは日本の政治が悪かったからだと、日本人をみんな恨んでいます。でも、あなた方にはなんの罪もありません。今、私がものを捨てますから、あなたは、それを、急いでお拾いなさい」
「ありがとう、ありがとう」
私は何べんも頭を下げて、道へ出て待っていた。主婦はパカチ(朝鮮の器)へいっぱいに、御飯と、朝鮮漬と、みそを入れて運び出して来て、私の目の前のヤブの中へ置いた。そして、後を見ずに、さっと家の中へ入ってしまった。
「ありがとう、ありがとう‥‥‥」
私はふるえる手で、パカチから持っていたふろしきの中へそれをあけた。何日ぶりで、いや、何ヵ月ぶりで触れることのできた米の粒であろう。
「さ、早く帰りましょう。おうちへ帰って、食べましょう」
唇がふるえて、言葉がまともに出て来なかった

