
本屋lighthouse
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2025年5月5日

一九八四年新訳版
ジョージ・オーウェル,
高橋和久
読んでほしい
最近読まれている本のなかにKADOKAWA版のこれが出ていたけど、個人的にはハヤカワepi文庫のこちらのほうが訳文がよくておすすめです。オーウェルは詩に対するなんらかの期待感、あるいは希望を見出しており、その意図を汲んでいるのであろう高橋和久訳のほうが作中詩が美しい。
本作はSF的設定に関心がもっていかれがちだけど、核心は「いかにして独裁状況は作られ維持されるか」というシステム論にあり、その状況こそが現代社会との類似性を持っている。端的に言えば、各種の貧困状態を意図的に作ること、が独裁状況の構築と維持の肝になる。経済・知識・心身の貧困はそれぞれが密接にかかわっていて、ひとつ崩すと徐々にすべてがダメになっていく。そしてなんらかの貧困状態にある者は、つまり余裕を失った者は他者への配慮や希望を失うし、社会や政治(という他者)へ意識を持つこともできなくなる。すなわち、「分断された個」が濫立する(が当人たちにその自覚はなく、これまた意図的に作られた「愛国心」によって共鳴しているつもりになっている)。各種の貧困=余裕のなさは「憎むべき他者=我々の利益を奪う者」として指定された存在へと向けられる憎悪によって、まがいものの解消をみる。政治によって意図的に作られた貧困が、これまた政治によって意図的に作られた「敵」へ向けられ、ガス抜きだけがなされる(よって貧困の解消にはならないし、そもそも解消されてはならない)。
(独裁=社会主義という図式も正しくない認識なので気をつけてほしい。社会主義という言葉はあまりにも多義的だし、むしろ独裁者が己の権力を維持するために「社会主義(と名指したもの)」を攻撃することもある。このあたりは『あなたのセックスが楽しくないのは資本主義のせいかもしれない』や『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』などを読むとわかりやすいのでぜひ)







