オケタニ "YABUNONAKA-ヤブノ..." 2025年5月5日

YABUNONAKA-ヤブノナカー
・「藪の中」を下敷きに、ある文芸界の女性搾取問題に迫る。告発されるのは老舗文芸誌の元編集長で、そいつの現役時代に作家志望で学生だった自分は搾取されたという告発が起こる。時間が経ってからの告発なので、それが成されるまで、成される以前に情熱を失った文芸人の土台は描かれ甲斐がある。 ・加えて、現行の若手編集者の女性問題も表出する。マチアプを使う自分も社会の乗りこなし甲斐のなさも冷静に見ていつつも、周囲の影響の反動もあってじわじわ皮が剥がれる。皮が剥がれるというか、醸造される熱量があり、それがやはり女への行動で表出してしまう。 ・掻き回すのは孤独になっても世界と戦う売れっ子作家であり、彼女自身も関係の冷えた夫、長く連れそうパートナー、娘、と問題に溢れる。作家ゆえに主観と客観の切り替えは自然に備わっているが、具体的な事件を機にそのバランスが崩れる。 ・シャンタルアケルマンの映画にも感じたが、淡々としたルーティンに見えても、それはバランスが取れていた訳でなく、徐々にある瞬間に向かっていってしまう、蟻地獄のような生活。作品が読者に見せる"1日目"はその人にとっては別に1日目ではない。 ・ビビッドなことはいろいろあるが、それは折り目をつけたから本を確認する。 ・この本が描いた世界を自分に引き付けるうえでは意外と、鮮烈な場面、些細な思考のよぎり、立場による理屈、ではなく、告発文が出来上がり受容されるまでの運動。 ・告発した女は、まず作家に相談した。その上で、文章の添削をお願いした。作家はたくさん赤字を入れたが、半分も採用せず女はそれを世に出す。かつて作家を志したこともあり「自分の復帰第1作となる」という言葉も入れている。それを作家は、中途半端なものだと冷めた目で見る。一つの短編小説にもなるのに、中途半端だと。そして、告発された編集者は、当然自身の言い分もあるが言い返すことはなく、その文章の中にかつて担当した作家の匂いに気づく。作家はもともと告発された編集者が担当していた。そして、そもそも女が告発する動機には、自分がとれなかった文芸誌の新人賞をとってデビューした同級生がついにヒット作を出したことへの嫉妬があった。 文章、創作をめぐる目線という補助線がしっかりとあることに、この作品世界の現実味を何よりも感じた。 ・この本は心にくるから一週間かけて読んだ。その間、アケルマンの映画と、その前日に「想像の犠牲」を見た。いぜれも3時間越えで腰が逝った。太×3の一週間として、記憶している。
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