
小萩海
@umiyoake
2025年5月6日

r4ンb-^、m「^
柿内正午
描いた
先日3/1に刊行されました『r4ンb-^、m「^』(著・柿内正午さん)の装画および挿絵を制作いたしました、小萩海と申します。
刊行から一ヶ月が経過したところで、柿内さんに絵側の制作の裏話を書いてもいいかお尋ねしたところ快諾いただきましたので、(いつのまにか二ヶ月経過していましたが)せっかくの機会ですのでReadsの場をお借りしていろいろと綴ろうと思います。
3300字近くあるので、時間に余裕がある時の暇つぶしにどうぞ。
・表紙について
☆目指したことまとめ
・ルドンさんの姿として間違いがなく、らしさがあること
・柿内さんと話し合った方向性と大きなずれが生じないこと
・本文を読んだ後に、さらにルドンさんのことを愛しく思っていただけるようにしたい
まず、ラブリーさでいえば本物に勝るはずがなく、正確性でいえば写真が適しています。
だからこそ、どうしたら絵ならではの良いものにできるかな〜というのは、はじめから最後まで模索していたことでした。
今回お話をいただいて、資料写真とともにイメージのすり合わせを行った初期段階で、猫本ということで、ルドンさんをメインにしたポートレート的な方向性でいくこととなりました。
また、具体的な生活についてのエッセイ本でもあるので、フィクションに寄ったアプローチではなく、現実的な説得力もある絵を目指すことにしました。
まずルドンさんの外見ですが、いくつかわかりやすい特徴はあるものの、全体には複雑な毛の模様をしており(文中、奥さんの言葉を借りれば、鵺のよう)、いくつかいただいた資料写真を、難しいなあ〜と思いながら見ておりました。額とか特に……。
また本文に具体的な外観描写があるため、描く側としては参考になったものの、逆に言えばごまかせないなあと思って丁寧に取り組みました。
また、特に重要視したのは、「本文を読んだ後に、さらにルドンさんのことを愛しく思っていただけるようにしたい」ということでした。
収められた日記やエッセイを読むと、こちらがにこにこにまにましたり、心がぎゅっとするようなところもありました。そういう諸々を含め、日常的な穏やかさを大切にしたさがありました。もちろん、かわいさも出したいです。
ルドンさんらしさを描くということとも、繋がっています。
また、本のあらすじ・方向性として「他者を迎え入れる記録と思索」「軽く読みやすいエッセイ」ということも特徴として挙げられます。すり合わせでも、大事にされていた点でした。
本文では、戸惑いを抱きながら猫との生活を模索しつつ、あっという間に生活そのものが変容していく様が書かれています。
表紙としては、生活がまざりあおうとしているあたりをイメージして描いてます(実際のところ、本文ではまざるのを噛み締めるより先に一気に変化したという印象が強いですが……!)。
そんなこんなを考えながら絵に反映した、具体的な内容としては、
・初対面であってもまったく物おじしない、人懐こすぎるルドンさんの、前のめりな雰囲気を、ちょっと前足を出す感じや、見上げてきているのがわかりやすい、上からのアングルで表現しています。
・体の影をやや手前の方に落としているのは、前述したこちら側に来ようとしている雰囲気を、視線的に感じ取れるかも?という考えがあります。
・瞳に、ぼんやりと人影を映していますが、柿内さんご夫妻です。「柿内家に居る。見上げてる」というダイレクトな表現と、他者との生活の重なりをイメージしています。
・軽やかなエッセイらしさと、ルドンさんの明るい性格を表現するため、直射日光が当たっているようなイメージで光を演出しています。(こうした光の方向性は柿内さんとも話しあって決めた点で、自分にはない視点があって面白かったです)
等々。
さらに作業工程として、ちょっと技術的な話になってしまいますが、ルドンさんの顔が目に入りやすいような構図にしたり、光や影を調節しています。
たとえば、人の目は、光と影の境目や、補色をはじめ色の違いなど、コントラストがあるところに目がいきやすい性質があります。
そのため、ルドンさんの特徴的なところや、絵の中で見てほしいところにコントラストがつくようにしています。
具体的には、
・目(瞳孔と、ハイライトの白のコントラスト。また絵の中で一番鮮やかな黄色の中に、さりげなく緑を入れてみたり、瞳を囲う縁も、紫や青など、黄色と反対色(いわゆる補色)にすることでよりコントラストを強めています。ちなみに左目部分も大事な特徴なので、青をちょっと差して、強調しすぎず埋没せずの塩梅を狙っています)
・耳(胴体の影に対し、光の当たる耳は明るく輪郭を強調しています)
・靴下(前足は光と影の境目ができるようにしています。また本来、現実的にはこうした状況においてこうした青い影は入りにくいですが、絨毯の赤と色味の差異をつけることで靴下部分の強調を優先しています)
・胴体手前側の白い毛(光にあたっている部分とちょっと影になった部分で、さまざまな色を使っています。これも現実的にはこういうふうには見えないけれども、「鵺のよう」感を出したかったので、あえて遊んでいます)
等々。
そんな感じのことを考えながら、全体にはルドンさんに明るい光がたっぷり当たっている、やわらかい印象になるといいなあと思いながら、完成形に至りました。
こんなふうに絵としてはもりもりに意図をちりばめていていますが、タイトルは無意味な文字列であり、ましてや猫にとっては知ったことではありません。それがいいですね。
・挿絵
ペン画でのラフスケッチ風というご依頼だったため、いくつかいただいた資料写真をもとに、ペンで一発描きのスケッチを紙に大量に描いて、その中から候補を選定し、最終的には柿内さんに選んでいただきました。
もとにしたのは写真ですが、実際に目の前にルドンさんがいることをできるだけ想像しながら描くのを心がけました。
つまり、作業自体が静止画をもとにしていても、現実では、人間の都合などお構いなしに常に動いていて、それをその場でスケッチしている状況……ということを念頭に置いています。
なので、今回でいえば、寝ている絵は描写が細かくてもいいけど、動いている真っ最中の絵は躍動的な動作そのものをとることを意識するなど、リアルタイムのスケッチ感が出るといいなあと思いながら描いていました。
そのため、線が二重に重なっていたりして清書で描き直すだろうところも、そのままにしています。
とはいえ、最終的にどういった絵がいいかは柿内さん次第なので、提出した段階ではもっとイラスト的な路線も混ぜていました。
自分的には意外なものも選ばれ、そういうのも共同作業の醍醐味でした。
結果的には、この挿絵で選ばれたものが現実的な猫感に近かったので、表紙絵もラフ段階より一層リアルな質感に近づけたり、この挿絵の制作自体ルドンさんの観察と練習にもなり、表紙と連動しながらの作業でした。
線だけの絵自体は苦手な方なのですが、味のあるかわいさを感じてもらえたら嬉しいです。
そんな感じで、絵側としては制作を進めていました。
当たり前ですが、メインは本文ですから、こうして文以外の細かい制作話を書くと、まるで「私を見て!」と主張しているようでそわそわします。
ですが、今回の制作が、やりとりも含めて楽しく、柿内さんにも喜んでいただけたのと、実際に頒布開始となってさまざまな方のご感想を読んでいたら嬉しくなり、ある種のエンタメの一つとして提供できればと思いしたためました。
蛇足かもしれませんが、また一層ルドンさんや『r4ンb-^、m「^』のことを好きになっていただいたり、本がさまざまな方の手に渡っていく一助になれば嬉しいです。
なかなかまとまらず長々となってしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました!
(ちなみに、未熟な身ではありますが、こうした文章関連にたずさわる受注仕事が今後もできたらなあと思ってます。
もしなにかの機会にちらと思い出すことがあれば、どなたでもお気軽にご相談ください! 個人制作の絵やお問い合わせ先はこちらにまとまっております→ https://www.umikohagi.com)






