NorioTonosaki "編むことは力" 2025年5月17日

編むことは力
編むことは力
ロレッタ・ナポリオーニ,
佐久間裕美子
編み物について、著者自身を含めて様々な方々のエピソードが語られ、その一つ一つが非常に面白い。第一次世界大戦での兵士に家族が来ていた衣類の糸を解いて作った靴下を提供した女性とその兵士との物語や、アメリカの大英帝国からの独立に至った羊毛戦争の話、パートナーの癌の発覚を機に政治的なメッセージを編み物に託した60代男性の話、編むことは葛藤ではない、表目、裏目の繰り返しに心を休められ、そしてそれが楽しい、出来上がる作品はただのボーナスである、と話す筆者の言葉など、どれも興味深い。全編を通して、編み物はその多くが利他的な行為であること、またそれが究極の人生のメタファーである、ということが語られ、全く編み物に興味が無い私にとっても非常に興味深かった。 下記は五章の章末にあった、非常に印象的な文。 私たちは国境を超えた糸によって繋がっている、その糸は、自然によって生み出され、私たちが紡いだ素材が塊となってできた、長い確かな糸なのだった。それは凍てつくような冷たさを持つサイバーユニバースの中にあるフェイスブックのページやツイッターアカウントではなく、私たちの地球の恵みであるウール、シルク、コットン、そしてそれを、体や心のニーズのためにどう使うか、ということなのだった。エジプトの綿畑からスウェーデンの羊のウール、モンゴルのヤクの毛まで、私たちが編む糸は、私たち全員がこの地球に属し、また命の奇跡の一部であることを思い出させてくれる。
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