
益田
@msd
2025年5月16日

悪について
エーリッヒ・フロム,
渡会圭子
読んでる
「ふだんの生活では悪いことより良いことを多くしているはずだ。そのような人がひとたび何百万人を支配し、強大な破壊兵器をコントロールする権力を持つ立場につくと、大きな害をなすことがある。市民生活のなかでは競争相手を破滅させるくらいですむかもしれないが、現在の大きな力を持つ主権国家(ここで“主権”とは国家の行動を制限する道徳律にしばられないことを意味する)が並び立つ世界では、人類を滅亡させる可能性がある。人類にとって本当に危険なのは、並外れた権かを持つふつうの人間であり、悪魔やサディストではない。
しかし戦争に武器が必要なのと同じで、何百万もの人々に命を危険にさらすよう仕向け、彼らを𓏸𓏸者に仕立て上げるためには、憎悪、義憤、破壊性、恐怖心が必要になる。こうした激しい感情は、戦争を始めるのに必要な条件である。」(p19)
「ここで人間の性向のなかで、もっとも堕落し危険な形態の基本をなすと思われる、三つの現象を選んでみよう。それらは死への愛、悪性のナルシシズム、そして共生・近親相姦的固着である。これら三つの性向が組み合わされると“衰退のシンドローム”が生じ、人を破壊のための破壊へ、憎悪のための憎悪へとかりたてる。“衰退のシンドローム”の対極にあるものとして、私は“成長のシンドローム”を説明しようと思う。これは生への愛(死への愛の反対)、人間への愛(ナルシシズムの反対)、そして独立(共生・近親相姦的固着の反対)からなる。これら二つのシンドロームのどちらかが最大限に発達するのはごくわずかな人だけだ。けれども誰でも自分で選んだ方向ー生か死、あるいは善か悪かーへと進むことは否定できない。」(p20)