
犬山俊之
@inuyamanihongo
2025年5月18日

高雄港の娘
田中美帆,
陳柔縉
読み終わった
最近は「国語」の授業や試験での「気持ちを答えなさい」という設問が揶揄されたり、批判的に取り上げられたりすることが多いのですが、「気持ち」を考えることはやはり大切だと思うのです。歴史的な記述だけでは理解の及ばない隙間を埋めてくれるのは、やはり「気持ち」です。そして小説は「気持ち」を考えるのに最適なジャンルだと自分は思います。
例えば、「台湾は親日だ」などとおっしゃるみなさんは、日本の植民地だった時代の台湾で台湾籍の子どもたちがどんな「気持ち」で生活していたのか考えたことあるでしょうか。高雄第一小学校ニ年生、児童数36人のうちわずか四名が台湾籍であり、その台湾籍児童の一人の女の子が成績では一位をとり続けているにもかかわらず、教師はその子を級長には指名せず、ニ位の「小川さん」が級長になる。「他のクラスはみんな一番が級長なのに、どうして私はなれないの?」と問わずにはいられない少女の「気持ち」、そしてこう聞かれてしまう大人の「気持ち」を考えてみてはいかがでしょうか。
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本書『高雄港の娘』は、日本で「台湾独立運動に奔走する夫を支えつつ、自らも実業家として活躍した孫愛雪」の生涯を描いたもので、読みどころとしては後半の「活躍」の部分なのかもしれませんが、自分にとっては前半の植民地下の生活、時代(政治)に翻弄される人々の生活が心に残りました。
「十年前は台湾の女性は長衫(チャイナドレス)さえ着てればモダンだったけど、五年前には愛国婦人会の人に批判されたのよね。日本の警察官には『非国民』とまで言われた服装が今また流行するんですもの」と。ホントに当時の人々はどんな「気持ち」だったのか▼

