阿久津隆 "旅の時間" 2025年5月12日

阿久津隆
阿久津隆
@akttkc
2025年5月12日
旅の時間
旅の時間
吉田健一
布団に入って吉田健一はまだニュー・ヨークにいて朝からバーに入ってブラッディ・マリーを5杯飲み、ホテルで昼寝し、夜はまた別の行きつけの店に行くという日課のニュー・ヨーク滞在でさすがに飲み過ぎでは、と心配になった。唐突にノワールの雰囲気が生じて夜道に銃声が響いて男と警官が現れて消えて朝になれば別の日だった。翌朝もいつものバーに行くとバーテンはやはり昨日現れて消えた男に見えて本木は「追跡されたのを適当に撒いて今朝は又このバーに来ていても可笑しくはなかった。その位のことは手際よくやってのけることが出来る筈の男だった」と考えた。 「もうそのうちに涼しくなるよ、」とそのバーテンが本木が注文したものをその前に置いて言った。まだ月の終りまでに何日かあって最初に来た時と少しも変らない湿度と温度の中で本木には涼しくなるというようなことが考えられなかったが相手がいい加減なことを言いそうな人間ではなかった。それから又それまでのような日々が続いた或る朝本木が起きて外に出ると日差しにどこか違った所があって秋風に公園の木の葉が吹き落されていた。 p.159 く〜、と思って吉田健一の文章はやっぱりかっこよかった。『旅の時間』はここまでとしてまたいつか。
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