
阿久津隆
@akttkc
2025年4月30日

塵に訊け
ジョン・ファンテ
読んでる
バンディーニの仕事が上向いてきた。雑誌に掲載され、100ドルが届いた。「アルトゥーロ・バンディーニ、作家。短篇を書くことで、みずからのペンで稼ぐ男。いまは長篇を手がけている。とんでもない一冊だ。刊行前から話題沸騰。瞠目すべき散文。ジョイス以降、最大の事件」とバンディーニは考えた。そして書いた。
六週間にわたって、毎日のように、甘美な数時間を、馥郁たる三、四、五時間を執筆に費やした、ページはどんどん積みあがり、ほかのあらゆる欲求は休眠していた。地上を歩く亡霊になった気分だった、人も獣もひとしく愛する男だった、道行く人びとと言葉を交わし、彼らと交わりをもつあいだ、心地よい慈愛の波が押し寄せてきた。全能の神よ、親愛なる主よ、お願いします、甘い言葉を語る舌をお与えください、この悲しく孤独な人びとに私の話を聞いてもらい、幸せになってもらいたいのです。かくのごとく日々は過ぎた。夢のような、光あふれる日々、ときおり偉大で静謐な喜びがやってくると、僕は部屋の明かりを消して泣いた、するとたいてい、死にたいという奇妙な欲求にとらわれた。
p.163
「夢のような、光あふれる日々、ときおり偉大で静謐な喜びがやってくると、僕は部屋の明かりを消して泣いた、するとたいてい、死にたいという奇妙な欲求にとらわれた」!