
阿久津隆
@akttkc
2025年4月20日

ブロッコリー・レボリューション
岡田利規
読んでる
読書日記
夕飯を食べ終えると布団。楽しく飲んでいる途中で唐突にレオテーが「いけすかないよ、本当に。こんなふうにいい気分になって飲み食いして、全人類がツーリストになる、それだけで世界はベターになる、とかなんとか安全な立場から好き勝手なことを言っているだけ。ものすごくいけすかない。そんなの全部わたしたちミドルクラスが暢気にのたまうどうでもいいたわ言だよ、ほんといやになるよ。こんな屁理屈には絶対にどこかに致命的な欠陥がある、でもわたしたちはそんなことにさえ気付くことができない。世界がまるで見えていないから。絶望的なまでに無知で、賢くなくて、そしてなにより鈍感だから。恥ずかしいよね」と激して、しかし楽しい夜として終わり、それを語る男の情けない憤怒の時間も終わり、「きみ」は今、プールで泳いでいる。
直射日光はやはり強烈だった、それがスコータイ・ホテルのプールサイド全面を照らしつけて、コンクリートの表面で撥ね返されていた。その眩しい陽射しは、直方体の型のようでもあるプールの中には水がなみなみと湛えられていた、そして大きなひとつの量塊をなしていた、そこに向けてもやはりありったけ注ぎ込まれていた。光はその量塊の中へといったん溶け込んだのちに白みがかった影となって、プールの内壁と床のそこかしこに、揺らめく投影として姿を現し直していた。
p.213
きみは水中メガネを装着していた、だから、プールの床と壁にはいちめん翡翠色のタイルが施されていた、そこに水の中に溶け込んだ光が儚い形態たちとして絶えず様相を変化させる終わらないプロセスが映し出されているのを、くっきりと見ることができた。タイルは、ひとつひとつは一辺がたぶん二センチにも満たないほどだった、小さな正方形だった、それが縦横に整然と、びっしりと敷き詰められていた。全面的なその翡翠色は、プールの中身をずっしりと埋める透明で巨大な水の量塊がうっすらと帯びる色彩を、決定的に規定していた。
p.214