
いるかれもん
@reads-dolphin
2025年5月30日

傷のあわい
宮地尚子
読み終わった
また読みたい
宮地先生の新しい文庫新刊。
1989年から1990年にボストン在住の日本人を対象に行われたメンタルヘルスに関するインタビューをもとに書かれたエスのグラフィー。インタビューは研究目的であり、その成果はパンフレットにもなったそうだけど、研究という枠からはこぼれ落ちてしまった、その人たちの物語が書かれている。
概ねエッセイ集と言っていいと思う。『傷を愛せるか』同様に、著者の研究者としての冷静でフェアな視点が保たれつつ、自身の心情や、インタビューをしている人の描写はとても素直でクリア。極めて平易な言葉で穏やかに語られて、胸にすっと馴染む文章。相変わらず私にとっては憧れる文章。
本書はもともと2002年に刊行された単行本を文庫化したものであるが、インタビューは1989年から1990年と今から35年前に行われている。しかし、その時間の流れはあまり感じない。それだけ、私たちの心って本質的には変わらない。なんなら、ここに書かれているのはボストンに渡った人たちの物語であるが、そうした背景も通り越して、日本で過ごす私たちにとっても深く染み入る。それだけ、心の本質みたいなものを描写しているのかなと思う。
文庫版で230ページ。スマホの代わりにズボンのポケットに入れてても収まりがいい。日常的に持ち運んでたまに読み返したい一冊。




