本屋lighthouse "ジョゼフ・コーネル 箱の中の..." 2025年5月31日

ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア
ジョゼフ・コーネル 箱の中のユートピア
デボラ・ソロモン,
太田泰人,
林寿美,
近藤学
私たちが偉大な芸術家の伝記を読む理由のひとつは、彼らが周囲の人々の人生を壊していくのに魅了されるからである。「芸術は救いとなる」というが、芸術は人を傷つけることもある。ピカソ以降の近代芸術家たちの人生譚にはよく裏切られた妻や恋人、母親や子どもたちの涙を誘う物語がある。  コーネルはそれと正反対だった。驚くほどに自己中心的でなく、あきれるほど無私無欲なのだ。そして従順でおとなしく、無気力なまでに母親の計略に黙従するのである。(中略)。ウエストハンプトンから届く、情熱的でいびつな告白付きのコーネル夫人の手紙を読むと、彼女が息子にどれほど固執していたか、なぜ彼の女性関係が妄想のなかに閉じ込められていたのかが理解できよう。(p.412) 結局、芸術を生み出すには自分か他者かその両方を傷つけないとならないのか、と暗澹とした気持ちになってしまう。コーネルの母親もまた、なにか歪な構造のなかに強制的に身を置かれていたことを感じさせる。
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