
紫嶋
@09sjm
2025年6月7日

くますけと一緒に
新井素子
読み終わった
借りてきた
まず初めに言うのなら、これはホラー小説ではないと思う。少なくとも、書店のPOPや本の帯に書かれている煽り文は、昨今のホラーブームに便乗して売ろうという業界の下心としか思えないし、むしろそんな煽り文を添えてしまうとこの物語の良さや大切な部分から遠のいてしまう気すらした。
さて、ホラーではないと書いたものの、この物語の中で書かれている現実は、主人公の幼い少女にとっては「恐怖」そのものだと思う。両親の不仲や愛情の欠落、学校でのいじめに苛まれていたと思えば、今度は親を亡くし、引き取られた先の家の人たちと親しくなればなるほど、今度はその温かな居場所を失うことを恐れたり、自分の心の中にある影や不安と向き合う苦しさを味わったり。
そんな少女の心の拠り所となっている大切なぬいぐるみも、周囲からは非難や嘲笑の対象になりやすく、それがまた少女を傷つけてしまう。
作中のおどろおどろしい描写は、そんな子供の視点から見た恐怖の象徴でしかないし、少女が心の傷や己の現状と向き合い、そして信頼できる保護者を得るまでの話と捉えれば、ホラーどころかラストはむしろあたたかで優しいお話だった。
まあ、「でも、もしかしたら本当にこのぬいぐるみは…」というファンタジー的な描写もあるところは、作者のテイストなのだろうけれど。
あと個人的にはこの作者さんは随分独特な文体の方なのだなぁ、と。この辺は好みが分かれるかもしれない。私はちょっとしらけそうになってしまったが、幸い子供の視点が多い物語だったので、この辿々しさも子供だからだと考えればギリ読めるかなという感じだった。


