
巽
@Tatumi
2025年6月7日

行け広野へと
服部真里子
再読
三月の真っただ中に落ちてゆく雲雀、あるいは光の溺死
終電ののちのホームに見上げれば月はスケートリンクの匂い
なにげなく掴んだ指に冷たくて手すりを夏の骨と思えり
夜の渡河 美しいものの掌が私の耳を塞いでくれる
花曇り 両手に鈴を持たされてそのまま困っているような人
春だねと言えば名前を呼ばれたと思った犬が近寄ってくる
野ざらしで吹きっさらしの肺である戦って勝つために生まれた
キング・オブ・キングス 死への歩みでも踵から金の砂をこぼして
冬晴れのひと日をほしいままにするトランペットは冬の権力
ひとごろしの道具のように立っている冬の噴水 冬の恋人
執拗に赤子の性器たしかめる仕草でコーヒースプーンを拭く
感覚はいつも静かだ柿むけば初めてそれが怒りと分かる
封筒のおかあさんへという文字の所在なく身をよじっている夜
感情を問えばわずかにうつむいてこの湖の深さなど言う
櫂を漕ぐ手に手を添えて炎暑から残暑へ君を押しやる力
こときれて真珠をこぼす首飾り春が終わるまで遊んでおいで
酸漿のひとつひとつを指さしてあれはともし火 すべて標的
草原を梳いてやまない風の指あなたが行けと言うなら行こう
かっこいい