
犬山俊之
@inuyamanihongo
2025年6月8日

静かな基隆港
魏明毅,
黒羽夏彦
読み終わった
台湾北部の港湾都市・基隆(キールン)でのフィールドワークの記録をまとめたエスノグラフィー(ethnography/民族誌)。
事前情報なしで読み始めましたが、すぐに引き込まれ、静かな興奮を味わいながら読了しました。よい作品でした。
まずは、自分のような、台湾在住ながら台湾の事をあまり知らない人間にとって、今まで知りえなかった人々の生活を覗き見るおもしろさがありました。1980年代に世界有数の港として繁栄し、労働者が札束をポケットに入れて闊歩していた時代の記憶と、すでに「死港」となった現在人々の生活。
また、「できる男」として振る舞うことを重視する「文化」のため、家族や周りを不幸にしてしまう「男らしさ」の呪縛。彼らは「個人的な」運命を体験したのではなく、みなこの港町の歴史に生きさせられてきたのだと。基隆は台湾の自殺者数で常に1位か2位であると。
装丁を含めて地味な作品なので、なかなか注目を浴びにくいのかもしれませんが、自分にとって深く印象に残る一作になりました。著者、翻訳者ともに誠実で信頼できる書き手であると感じました。おすすめ。



