
yomitaos
@chsy7188
2025年6月9日

普通の底
月村了衛
読み終わった
@ 自宅
凶悪犯罪が起こると、犯人がいかに人外的な思想を持つ悪人であるかが強調され、我々「普通の人」とは別の世界に住む異界の生物であることが語られる。
それは「普通の人」である我々は、けっしてそうはならないから安心だよね、というメッセージングでもある。分断してしまうことで、逆に安心してしまう、そんなエンタメをメディアは提供してくれる。
凶悪犯だからそこには明確な悪意や思想・怨恨があるだろう。そんな物語を、我々「普通の人」は求めてしまう。なぜなら、我々にはそんな物語がないのだから、凶悪犯にはなり得ないと思えるから。
この本で語られる川辺優人という人物の物語は、有り体に言って普通である。2025年という時代から見ると、どちらかと言えば恵まれた人生を送っている。たしかに主体性がなく、選ぶべきでない選択をなし崩しに選んでしまっている面はあるが、それほど珍しいというわけでもない、この希望のない時代に合った人間だと思う。
彼自身が独白しているとおり、その言葉はとても薄っぺらい。恨みも厭世観も、怒りも哀しみも、すべてが薄っぺらい。しかし、意図せず罪を犯してしまう人間は、大抵こんな薄っぺらい理由で道を踏み外してしまうのではないか。きっと自分が罪を犯してしまうときも、こんな薄っぺらい理由なんだろう。読後しばらく、暗澹たる気持ちになった。




