潮満希 "猫町" 2025年6月11日

潮満希
潮満希
@chosekido_m
2025年6月11日
猫町
猫町
萩原朔太郎
詩人として有名な萩原朔太郎の小説作品。 冒頭には、哲学者であるショーペンハウアーの蠅の現象と“物そのもの”に対する言葉がエピグラフとして引用されており、この『猫町』という作品の理解を助けてくれる。 主人公である“私”——おそらくは、萩原朔太郎本人——は、もともと旅に浪漫を抱いていたが、それが「同一空間における同一事物の移動」であると思うようになって以来、旅をすることへの興味とロマンスを失くしてしまう。しかし、“私”にはその本心として旅をしたい欲求があるらしく、過去にはモルヒネなどを使用した幻覚世界の“旅行”にも勤しんでいた。ただ、それらが身体を蝕むものであったことから、“私”はそういった“旅行”を止めざるを得なくなり、運動のための散歩をするようになるのだが、その中で、方向感覚を失った際、世界の様相が反転する現象——“曰く、「磁石を反対に裏返した、宇宙の逆空間」”——に出逢い、“私”はこれに楽しみを見出すようになる。 この物語は、そうした“旅”の中で出逢ったとある“猫の町”についての話であり、幻想的な雰囲気を孕むと共に、一種の悍ましさを見るものへと意識させる。 長崎出版から出ている『猫町』には、金井田英津子さんの絵がふんだんに用いられており、個人的にはその絶妙な作風が萩原朔太郎の持つ幻想的な世界観をより増幅させている印象を受け、大変に慕わしい。 短なお話であり、青空文庫にも置かれているため、興味がある方には是非ともおすすめしたい。
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