猫町

2件の記録
- 本読みたい@tpfish2025年6月20日読み終わった『猫町』は、詩人・萩原朔太郎が描いた幻想的な小説。少し昔に書かれた作品だけあって、今の感覚では語彙も文体もなかなか難解。でも、それが逆に心地よく、今回、子どもに「読んで」と頼まれて音読してみたところ、読み進めるうちに不思議とクセになるような読書体験になりました。さすがは詩人の文体、といったところ。 ストーリーは練りに練られた展開があるわけではなく、どこか夢の中をさまようような、不安で美しい雰囲気が全体を包んでいます。小学生にはちょっと難しい内容かもしれませんが、ほぼすべてのページに不思議な雰囲気の挿絵が添えられているので、子どもも世界観に引き込まれていた様子でした。 幻想文学や詩的な文体が好きな人にはきっと刺さる作品。雰囲気に身をゆだねて読むのがおすすめです。大人が音読しながら楽しめる、静かで奇妙な“文学体験”が味わえる一冊です。
- 潮満希@chosekido_m2025年6月11日古本屋で出逢った本何度でも読みたい詩人として有名な萩原朔太郎の小説作品。 冒頭には、哲学者であるショーペンハウアーの蠅の現象と“物そのもの”に対する言葉がエピグラフとして引用されており、この『猫町』という作品の理解を助けてくれる。 主人公である“私”——おそらくは、萩原朔太郎本人——は、もともと旅に浪漫を抱いていたが、それが「同一空間における同一事物の移動」であると思うようになって以来、旅をすることへの興味とロマンスを失くしてしまう。しかし、“私”にはその本心として旅をしたい欲求があるらしく、過去にはモルヒネなどを使用した幻覚世界の“旅行”にも勤しんでいた。ただ、それらが身体を蝕むものであったことから、“私”はそういった“旅行”を止めざるを得なくなり、運動のための散歩をするようになるのだが、その中で、方向感覚を失った際、世界の様相が反転する現象——“曰く、「磁石を反対に裏返した、宇宙の逆空間」”——に出逢い、“私”はこれに楽しみを見出すようになる。 この物語は、そうした“旅”の中で出逢ったとある“猫の町”についての話であり、幻想的な雰囲気を孕むと共に、一種の悍ましさを見るものへと意識させる。 長崎出版から出ている『猫町』には、金井田英津子さんの絵がふんだんに用いられており、個人的にはその絶妙な作風が萩原朔太郎の持つ幻想的な世界観をより増幅させている印象を受け、大変に慕わしい。 短なお話であり、青空文庫にも置かれているため、興味がある方には是非ともおすすめしたい。