ユメ "空耳の森" 2025年6月8日

ユメ
ユメ
@yumeticmode
2025年6月8日
空耳の森
空耳の森
七河迦南
七河迦南さんの作品を読み終えたとき、私は決まって呆然としている。心揺さぶる読書体験に圧倒され、どんな賛辞を連ねればこの本の感想に相応しいのだろうかと、途方に暮れてしまうのだ。 収録されている九つの短編は、一見どれも日常を巧みに切り取った小説であるかのように思われる。だが、読み進めて行くと、突如として上質なミステリに変化するのだ。作者が凝らした技巧、周到に張り巡らされた伏線に物の見事に騙されていたのだと気付かされる瞬間の爽快感は癖になる。中でも「アイランド」は、少し不思議な世界観が思いもよらなかった重い現実に着地するのが印象深い。 そして、基本的に独立した内容であるかと思われた九つの短編は、ひとつの大きな物語へと収束してゆき、最後を飾る表題作で美しくまとまる。それがあの七海学園の現在の物語なのだと分かった瞬間、驚きと感動に震えた。『七つの海を照らす星』と『アルバトロスは羽ばたかない』を読み返したくてたまらなくなる。
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