
ひよこ
@tsumu_books
2025年3月3日

ピエタ
大島真寿美
聴き終わった
Audibleにて。
これは紙で読むのとはかなり読書体験が変わる。
基本的には紙で読みたい派で、「audibleのほうが良かった」という本はそんなにないのだけれど、これはaudibleでよかった1冊かもしれない。
芸術の街ヴェネチアを舞台にしながら、描かれるのは華やかで豪奢な側面だけではない。ピエタに捨てられた子供たちのつましくも美しい暮らし、美しさと知性を持ち合わせ、稀代の音楽家と恋をする娼婦の気高さと寂しさ、老いてなお助け合いながら生きていく女たち、貴族として生まれ落ちたことに苦悩する娘。様々なひとの暮らしと強さが描かれた作品だと思う。
物語の中心に据えられているのは、アントニオ・ヴィヴァルディ。けれど物語は彼が亡くなるところから始まる。彼はすでに失われているが、彼を取り巻く人々の毎日は続いていく。
ある種ミステリー的な要素もあるが、主題はそこにない。単純に彼の喪失を嘆く人々の話でもない。なんとなく、誰かを失うってこういうことだよな、とも思う。ドラマチックにその人との思い出を抱えて生きる…‥ということもあるのだろうけど、大抵はそうではない。折々に誰かと話す中で思い出したり、なんでもない時にふと記憶が蘇ったり。なんというか、その程度でよいのだ、という気もした。
それから、きっと多分間違いなく、冬のヴェネチアは美しい。ヴェネチアを訪れるなら、冬がいい。