
葉月文庫
@LeavesLibraries
2025年6月23日

君のクイズ
小川哲
母校はたいへんに頭がよろしいとされている学校なのに、クイズがまったく流行っていなかったのはなぜだろうか。1年生はじめのテストで記述回答の多さに圧倒されるからだろうか。絶対評価下で「他人よりも先んずること」に価値を見出さなかったからだろうか。
ベタ問を「知っている」ことに、どんな価値があるのだろう。何かを考えるときにまず必要なのは知識で、それの伴わない思考や議論は無価値で、だからすなわち知識は大切なのだけれど、でも「ベタなですが問題」を知っていることの価値をわたしははかることができない。
ほぼ全員が出身中学で1位で、勝つことが当たり前の中でそだってきて、そうして初めて「1位じゃない」「特別じゃない」「勝てない」という経験をする。あのアイデンティティの崩壊と再構築を懐かしく思いだす。1位じゃない安心。目立たなく済む安心。ひとめを気にせず知識を追い求められる幸福。
「夜が深いとはどういうことだろうか」と考え続けられる知性がまぶしい。そして懐かしい。そういう「答えのない問い」に対する答えを帰り道ずっとディベートしていた。
ちゃんと「このはらっぱにおけるセイタカアワダチソウとススキの戦いはどちらが優勢か」などというくだらない「答えのない問い」も考えていた。アホなのか優秀なのか、紙一重の上を歩いていた。
「知る」という営みは楽しい。「覚える」という営みはつまらないけど役に立つ。そう思っているのに「クイズ」にまったく惹かれずにここまできたのはなぜなのだろう。