
柿内正午
@kakisiesta
2025年6月25日

社交する人間
山崎正和
読んでる
“まずダ・リヴァやタンホイザーの礼法書の眼目に注意すれば気づくことだが、それは要するに食物をあわてて貪るなという戒めであり、いいかえれば食欲の満足を急ぐなという教訓であった。これは欲望の本質から見て消費者にとって的確な忠告であって、当時の享楽的な上層階級にも著者の意図した以上の納得を与えたものと想像できる。なぜなら別の機会に繰り返し書いたことだが、食欲に代表される人間の欲望には宿命的な限界があって、それを急いで満足させれば快楽は逓減し、やがて苦痛に変わるという逆説があるからである。消費の快楽は消費を続ける過程にしかなく、したがって満足を遅らせ過程をひき延ばすのが快楽を増す唯一の道だということは、誰の目にも明白だろう。一見、面倒な礼儀作法がじつは飽食の限界を先送りし、結果として歓楽を増大させることは、粗野な中世騎士たちにも容易にわかったにちがいない。ここでは彼らの生理的な欲望そのものが、より高次の欲望である虚栄心や名誉欲、他人の称賛にたいする欲求を下支えしていたはずなのである。”
p.143




