麦茶 "そこから青い闇がささやき" 2025年6月30日

麦茶
麦茶
@mugicha
2025年6月30日
そこから青い闇がささやき
ユーゴスラヴィアの歴史は、知ろうとすればするほど、どこにも救いがないように思えていた。大国の力に翻弄され、「普通の人々」が自民族のために多民族を迫害し、外側からも内側からも破壊されたユーゴスラヴィア。 その渦中にいながら、山﨑佳代子さんは小さな小さな希望に耳を澄ませて詩を紡ぐ。世界に気付かれない人々の声に、言葉に、沈黙に耳を傾ける。 それはどんなに難しいことだろうと思う。 人には心を麻痺させる機能が備わっているから、悲しいことを悲しいままに向き合い続けるのはとても大変で労力がいる。そして子供の心や、花や、鳥のさえずりに感じた希望を守り続けることは、たぶんもっと難しい。けれどそれが不可能ではないことを、この本から教わった。 あたたかい読後感の中に横たわるのは、「セルビアの南部のコソボ」(p.225)という表現にはっきり現れるコソボ問題。アルバニア人にはアルバニア人の経験があり、セルビア人の経験の裏側がある。そういうことを適切に語るにはどうしたらいいのか、そんなことができる人はいるのか、考えたらやっぱり終わりがない。 それでも、それがどんなに主観的であったとしても、現地を生きる人の言葉ほど重いものはないと思う。安全な場所から客観的ぶった分析を振りかざすのは簡単だよな、と学生時代の自分の浅はかさを反省する。
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