
yu
@meeea01
2024年11月11日

すべての、白いものたちの
ハン・ガン,
斎藤真理子
かつて読んだ
ノーベル賞受賞をきっかけに手にとってみました。短い章が続く静かな構成で、隙間時間にも、ゆっくりと雪が降り積もるように読み進めることができます。
白い花、白い鱗、白い鳥、白い小石、白い湯気。
繊細な筆致で描かれる多彩な白に不思議な気持ちで包まれました。
小説でもなく、独立した詩集でもない。
言葉と記憶のあわいで生まれた透き通るような作品です。
姉の死によって生まれた自分の生の輪郭とその傷を様々な白を通して描いているように感じました。
経験した記憶ではなく、語られた記憶としての姉の存在にそっと触れ、現実と表象が、具象と抽象が、生と死が混じり合う。
読み終えた後、ふっと漏れた息が、心なしか白く見えた。その白さを目で追いながら、音の消えた静かな雪原に立っているような心地になる。
自分が生きているという偶然性とその儚さについて。生まれなかった、生きられなかった命について。その不可視の傷について、静かに想いを巡らせる幻想的な本でした。
この本の中で好きな文章を引用します。p163
「長かった一日が終わると沈黙のための時間が必要だった。暖炉の火の前に座ったときにひとりでにそうなるように、沈黙のわずかなぬくもりにむかって、こわばっていた手をさしのべ、広げる時間が。」
