しまりす "絵のない絵本改版" 2025年6月11日

しまりす
しまりす
@alice_soror
2025年6月11日
絵のない絵本改版
絵のない絵本改版
アンデルセン,
ハンス・クリスチャン・アンデルセン,
Hans Christian Andersen,
矢崎源九郎
貧しい絵かきが孤独に所在なく絵を描きあぐねていたところ、いつもと変わらず空にある月があらわれ、雲がはいりこんでこない限り、毎晩絵かきに話をしてくれると言う。 話したことを絵にかけば良いと。「千一夜物語」を絵であらわすことができるかもしれない。 その月が語る美しい絵画のような物語を三十一夜分並べた短編集。 月が空に輝く間、見守ってきた人々の生活や人生。月が気にかける人間は「わたしの娘」、「わたしの老嬢」と愛おしげに語る。そして親愛のキスをする。 月の光は空気の澄んでいる度合いや物理的な距離にもよるが、いつも同じように控えめに見守るように優しい光で地上を照らす。 嬉しくても悲しくても寂しくても同じようにそこにある月の視点で夜の帷の中の人間の有り様を優しく見守り慈しむ物語は、短くともそれぞれが誰かを癒し清める力を持っていると思える。 月という、時代を超え夜を上から見渡せる超越する存在によって、整合性は保った上で時間的空間的制約がなくなり、あらゆる立場の人間の他の誰にも目撃されず掬い取り得ないエピソードを愛でるよう紡ぐ。 それは、自分の掴み得ぬほど遠くにいるかもしれない、世界のどこか誰かの小さな物語だ。そういうものを想像する視点を持つことで、狭い世界で近視眼的になった独善性に溺れず心を思いやりで満たす尊さを、今も尚我々に優しく説き続けている。
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